前澤給装 Research Memo(6):2025年3月期に売上高305億円、営業利益26億円を目指す
1. 中期経営計画
前澤給装工業<6485>は東証プライム市場への移行にあたり、2022年5月に2025年3月期を最終年度とする「中期経営計画2024」を策定した。1) 事業ポートフォリオ・マネジメントの推進、2) サステナビリティ経営の実現、3) 利益還元の強化、を3つの基本方針としている。数値目標は、2025年3月期に売上高30,500百万円、営業利益2,600百万円、営業利益率8.5%、ROE5%以上を掲げている。売上高については、原材料価格高騰を販売価格に反映させながら、成長分野を拡げる方針である。営業利益については材料コスト高への対応のため、価格を改定しながら、効率化を推進することで達成を目指す。同社は安定的な需要を有する給水装置事業、給水装置事業の技術を生かして進出した住宅・建築設備事業、さらにM&Aによる事業領域拡大で事業ポートフォリオの強化を進める。
2. 事業別動向
a) コア事業としての給水装置事業
高いシェアを有するコア事業の給水装置事業は、安定的な収益拡大のために強みを生かした差別化を進め、競争優位を追求していく。具体的には、底堅い需要が見込まれる「老朽化取替に付帯する需要」を確実に取り込み、地震災害に備える「耐震」製品等のニーズに応え、配水支管を中心に給水装置事業の安定的な成長を目指す。
厚生労働省の医薬・生活衛生局水道課による「水道行政の最近の動向等について」(令和5年3月23日)の資料によると、全国の水道施設の更新費・修繕費は過去10年間平均で約1兆3,000億円と推定される。これに対し老朽化対策を中心として将来にわたる単純更新費だけで平均1兆8,000億円と試算される。しかもそのなかで同社は管路のウエイトが市場として70%強を占め、同市場は安定した需要が続くものと見られる。水道施設整備費等の推移では、同資料によると、令和5年度に742億円が見込まれており、このうち水道施設の耐震化や水道事業の広域化に資する施設整備事業等に対する財政支援が547億円と70%強を占める。老朽化対策として多額に資金を投入、耐震適合を進めているが、それでも実態は更新が遅れがちである。
水道管路の法定耐用年数は40年であり、高度経済成長期に整備された施設の更新を進めているが、更新投資が不足、管路の経年化率(老朽化)が上昇、管路更新率が年々下がっている。現在、基幹管路において耐震適合率が令和3年度で41.2%と必ずしも高い数字とはなっていない。しかも令和2年度末で基幹管路と言われる導水管、送水管、配水本管の全人口における適合率が48.0%であるのに対し、同社が中心としている配水支管においては28.3%でしかなく、非常に遅れた状況にある。昨今の水道管破裂などの頻発、気候変動によるゲリラ豪雨などの多発化などを考慮すると、今後、耐震適合率を高めるニーズが高まると見られる。
同社はこのような現状に対し、的確な製品開発を行い、老朽化対策投資に対し着実な売上拡大を実行している。具体的には耐震強化型継手や地盤変動対応継手、また人口減少に伴い給水量が減少していることから、老朽化で取り替える場合、管路布設替えはダウンサイジング化が進行している。これに対応しダウンサイジング対応製品の投入も強化している。
また同社最大の売上地域である関東では、東京都が耐食性及び耐震性に優れたステンレス鋼管による給水分岐配管を採用し、公道の給水管での鉛管からステンレス鋼管への取り替えが平成14年度末までにほぼ完了した。しかし青銅製の給水装置用材料との接続で青銅製材料に異種金属接触腐食が生じていると言う。そこで恒久的な防食対策として道路下に使用する給水装置材料のオールステンレス化を予定している。同社はステンレス対応でも配水管の分岐から第一止水栓、メーター用止水栓の接続部まで製品をラインナップしており、東京地区の受注増も見込める。
b) 成長ドライバー事業として周辺領域の拡大を図る住宅・建築設備事業
今後も成長ドライバー事業として周辺領域の拡大を図る計画で、空調設備向け製品などの投入を始めた。空調分野は大型施設用空調分野で、空調用に水や温水を循環するシステムが採用される場合には、給水システムと同様に樹脂パイプなどを利用するなど、同社の既存技術を生かせる事業である。既に2023年3月期は100百万円規模となったもようで、今後、大型施設向け空調部品として拡大が期待される。なお同社が扱う配管部材はガス・空調設備などに限らず適用範囲が広いため、関連多角化を模索し、さらなる事業拡大の選択肢があると思われ、今後も住宅着工戸数が伸び悩むなかでも着実な売上拡大を見込めると弊社は考えている。
3. サステナビリティ経営の実現
同社はCSRに対しても積極的に取り組んでいる。中期経営計画2024では、新たにサステナビリティ方針を掲げ、あるべき姿として「社会との共生」「環境との調和」「人財の尊重」「責任ある行動」を設定し、サステナビリティの実現に取り組んでいる。
「社会との共生」では、安全・安心に暮らせる快適な社会の実現を目指し、ライフラインの一翼を担う企業として、安全・安心な製品の安定供給に取り組んでいる。「環境との調和」では事業を通じた環境負荷の低減を目指し、CO2削減、廃棄物の削減、環境配慮型製品の開発などを目指す。「人財の尊重」では、健康経営(労働安全衛生)を推進し、安心で働きがいのある職場の実現に取り組むことで、従業員のエンゲージメント(理解度・共感度・行動意欲)の向上を図る。また、デジタル化による業務効率化を推進し、ワークライフバランスを実現できる職場環境を整備している。「責任ある行動」では、ガバナンス体制の確立のため、コーポレートガバナンス・コードに沿った取締役会の実効性向上に取り組み、経営の透明性を高め、またコンプライアンスの徹底を通じ、継続的な経営の健全化にも努めている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 岡本 弘)
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