アンジェス Research Memo(2):大阪大学発のバイオベンチャーで、遺伝子医薬に特化した開発を進める
1. 会社沿革
アンジェス<4563>は1999年に設立された大阪大学発のバイオベンチャーで、HGF遺伝子(肝細胞増殖因子)の投与による血管新生作用の研究成果を事業化することを目的に設立された。
HGF遺伝子治療用製品では、田辺三菱製薬(株)と2012年に米国市場、2015年に国内市場で末梢性血管疾患を対象とした独占的販売権許諾契約を締結している。2019年3月に国内で慢性動脈閉塞症患者向けに条件及び期限付製造販売承認を取得し、同年9月から田辺三菱製薬を通じて販売を開始しているほか、米国にて2020年2月より後期第2相臨床試験を実施している(2023年3月被験者登録完了)。
その他のパイプラインでは、2018年より米国で開始した椎間板性腰痛症を対象とする核酸医薬品であるNF-κBデコイオリゴDNAの後期第1相臨床試験で良好な結果を得て、2023年より国内で第2相臨床試験を開始する方針を決定した。2018年4月よりオーストラリアで開始した高血圧症を対象とするDNAワクチンの第1相/前期第2相臨床試験では、プラスミドDNAの発現量に課題を残したため、現在技術改良に取り組んでいる。また、2022年5月にアイガーと希少遺伝性疾患であるHGPS及びPLを適応症とした治療薬「ゾキンヴィ」の国内での販売契約を締結し、承認申請に向けた準備を進めている。2022年9月には、国内で進めていた新型コロナウイルス感染症(武漢型)向けDNAワクチンの開発中止と合わせて、新型コロナウイルス感染症の変異株を含むウイルス性肺疾患を対象とした改良型DNAワクチンの経鼻投与製剤について米スタンフォード大学と共同研究契約を締結したことを発表している。そのほか、2020年12月に子会社化した米Emendoにて、希少遺伝性疾患であるELANE関連SCNを対象とした臨床試験の開始に向け、FDA(米国食品医薬品局)との協議が進められている。
アライアンス戦略としては、2018年に共同開発契約を締結したカナダのVasomuneで、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)及びARDSを対象とした治療薬候補品「AV-001」の臨床試験が進められているほか(2023年1月に出資を実施)、2018年にマイクロバイオームの研究開発を行うイスラエルのMyBiotics Pharma Ltd.に出資した。
また、医薬品開発以外の事業として2021年4月に希少遺伝性疾患の検査を主目的とした衛生検査所ACRL(アンジェスクリニカルリサーチラボラトリー)を開設し、(一社)希少疾患の医療と研究を推進する会(CReARID(クレアリッド))と連携して同年7月よりオプショナルスクリーニング検査(有償検査)の受託業務を開始している。
2. 事業の特徴とビジネスモデル
同社の事業の特徴は、遺伝子の働きを活用した医薬品である遺伝子治療用製品、核酸医薬、そしてDNAワクチンを遺伝子医薬として定義し、社会的な使命であるとともに確実な需要が存在する「難治性疾患」や「有効な治療法がない疾患」を開発対象領域としていることにある。また、自社開発品以外にもこうした事業方針と合致する開発候補品を海外のベンチャーや大学などの研究機関から導入して、開発パイプラインの強化とリスク分散を図っている。
同社のビジネスモデルの主軸は、研究開発に特化し(製造は外部の専門機関に委託)、開発品についての共同開発や独占製造販売権許諾契約を大手製薬企業と締結することで、契約一時金や開発の進捗状況に応じたマイルストーン収入を獲得し、また、上市後の製品売上高に対して一定料率で発生するロイヤリティ収入を獲得するモデルである。
臨床試験の規模や期間は対象疾患等によって異なるが、第1相から第3相試験までおよそ3~7年程度かかると言われている。臨床試験の結果が良ければ規制当局に製造販売の承認申請を行い、おおむね1~2年の審査期間を経て問題がなければ承認・上市といった流れとなる。新薬開発の成功確率は低く、基礎研究段階に特定した候補品が新薬として発売される確率は、約3万分の1と言われている。このため、HGF遺伝子治療用製品を条件付き承認とは言え、上市までこぎつけたことはバイオベンチャーとして一定の成果が得られたものと評価される。
また2021年から新たな事業として、希少遺伝性疾患のオプショナルスクリーニング検査事業を開始した。生後間もない乳児から採血して希少遺伝性疾患の有無の可能性を調べ、発症前の早期段階から治療を始めることで、症状の進行を抑える効果が期待されている。自治体が公費で実施するマススクリーニング検査(20疾患を対象)以外の希少遺伝性疾患について希望者に対して有償で検査を行っている。CReARIDでは2018年から一部の医療機関と連携して普及啓蒙活動に取り組んでおり、現在検査可能な疾患はムコ多糖症やファブリー病(男子のみ)など9種類※1で、今後も増やしていく方向だ。検査件数は連携医療機関の増加や認知度向上もあって年々増加傾向にあり※2、2022年度は約1.8万人の検査を実施し(2020年度は約1.2万人)、このうち同社で約1万人分を受託している。CReARIDの資料によれば約1.8万人の検査のうち要検査判定が出たのは26件で、その後の精密検査で5件が確定診断された。
※1 検査対象は、ムコ多糖症(I型、II型、IVA型VI型)、ポンペ病、ファブリー病(男子のみ)、副腎白質ジストロフィー(男子のみ)、脊髄性筋萎縮症、重症複合免疫不全症の9種類。
※2 連携医療機関は首都圏を中心に58施設(11都道県)となっており、検査実施率は院内出産児の6~8割程度となっている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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