動物高度医療 Research Memo(3):地域の「かかりつけの動物病院」との分業で高度な動物医療を実現(1)
1. 事業概要
日本動物高度医療センター<6039>はペット(犬・猫)向け高度医療を専門に行う総合動物病院(二次診療施設)を展開している。ペットの飼い主にとっての「かかりつけの動物病院」となる地域の動物病院(一次診療施設)からの完全紹介・予約制によって、一次診療施設では対処が困難な重度の患者動物に対して高度な専門医療(二次診療)を行う。
人用医療と同じCT、MRI、放射線治療器といった高度医療設備・機器を備え、ペットの専門疾患に関する研究・臨床を行ってきた獣医師が中心となり、ペットに対して高度な専門医療(検査・治療)を行う。ワクチン接種や予防などの一次診療は行わない。また診療後のケアは紹介元の一次診療施設に要請する。
ペットの家族化、長寿命化、疾病多様化などで、飼い主の間に「ペットにも人間と同じように高度な医療を受けさせたい」として、動物医療に対する多様化・高度化のニーズが高まるなか、一次診療施設である全国各地の「かかりつけの動物病院」との分業によって高度で充実した動物医療を実現している。
2009年3月には、民間では初めて「小動物臨床研修医診療施設」として農林水産大臣から指定を受けた。動物医療業界において臨床や教育現場で活躍する人材教育の環境を整え、動物医療技術の向上を担う臨床研究にチャレンジするなど、教育・研究の実践の場として高度医療を提供することで広く社会に貢献することを目指している。
連結子会社キャミックの画像診断サービスは、同社の二次診療施設と同様に、一次診療施設から画像診断だけを希望する飼い主の紹介を受け、完全紹介・予約制でMRIやCTを用いて画像の撮影を行い、所見を付けて一次診療施設に報告している。基本的なスタンスは一次診療施設のサポートと位置付けている。
2. 特徴・強み
ペット向け高度医療専門の総合動物病院として、高度かつ総合的な獣医療を提供していることが特徴だ。循環器・呼吸器科、泌尿生殖器・消化器科、腫瘍科、脳神経・整形科、眼科、放射線・画像診断科、麻酔科など、動物の生命もしくは生活の質に大きく関わる分野を幅広くカバーする専門診療科、及び最先端の医療設備・機器を備えて、特定の診療分野に特化した診療を行うとともに、併発する分野の疾患や鑑別が困難な症状の疾患に対して複数の診療科で診療を実施している。
なお2021年3月期の初診件数は合計6,926件で、科目別構成比は泌尿生殖器・消化器科が約37%、脳神経・整形科が約26%、腫瘍科が約22%、循環器・呼吸器科が約13%、眼科が約1%だった。過去4期間の推移で見ると、構成比に特に大きな変動はない。なお、2021年5月に新たな診療科として血液内科を開設した。
3. 収益モデル
収益は飼い主から受け取る診療費が柱である。一次診療施設との間で紹介料は発生しない。獣医師の診療報酬は自由診療であり、それぞれの動物病院が個々に設定している。独占禁止法によって、獣医師団体が基準料金を定めることや、獣医師同士が協定して料金を設定することが禁じられている。このため動物病院によって診療報酬に格差がある。同社の場合は、設備投資の償却や人件費などを考慮して診療報酬を設定している。診療内容は飼い主の希望に沿って決定される。
なお連結売上高の構成比は、同社の二次診療サービスが8割強、連結子会社キャミックの画像診断サービスが1割強となっている。
4. 連携病院数、初診件数、総診療件数は増加基調
診療件数は一次診療施設からの紹介件数によるため、同社は特に初診件数(新規に受け入れた症例数)を最も重要な経営指標と位置付けている。そして登録の申し込みに基づく連携病院数の増加が、初診件数や総診療件数(初診件数と再診件数の合計)の増加、すなわち収益の拡大につながる。
学会発表やセミナー開催などの学術活動を継続的に推進して連携病院の増加を図っており、連携病院数は増加基調である。2010年3月末の2,248施設から2021年3月末には3,928施設まで増加した。なお病院の新規開業に伴って受入体制が強化されるため、連携病院数も病院の新規開業(2011年12月名古屋病院、2018年1月東京病院)時に大幅に増加する傾向がある。また連携病院数の増加に伴って、全国の小動物診療施設軒数に対する連携病院数比率も、2010年3月末の22.2%から2021年3月末には32.4%に上昇した。またエリア別で見ると、川崎本院と東京病院の関東エリアでは50.2%、名古屋病院の東海エリアでは41.5%まで上昇している。
連携病院数の増加に連動する形で、初診件数(紹介数)及び総診療件数は増加基調である。また初診から手術に至る割合はおおむね3分の1程度で推移しており、初診件数の増加に伴って手術件数も増加基調である。2021年3月期の初診件数は前期比6.9%増の6,926件、総診療件数は同7.8%増の27,269件、手術件数は同6.6%増の2,108件となった。
5. リスク要因
リスク要因としては、一次診療施設からの紹介への依存、新規病院開業に伴う収益変動、ペット飼育頭数減少や競合激化など事業環境の変化、診療サービスの過誤や診療動物間での感染症流行、獣医師法や獣医療法といった法令の改正による規制強化、人材の確保・育成などがある。
競合に関しては、一次診療施設の動物病院数は増加傾向(農林水産省調べによる全国の小動物診療施設軒数は2009年末の10,135軒から2019年末の12,116軒まで増加)だが、同社は一次診療施設と直接競合せず、一次診療施設と連携・分業するビジネスモデルである。また競合先と考えられる獣医科大学病院や単科二次診療所との比較で見ると、11の専門診療科を有する高度医療専門の総合動物病院として、専門診療科による高度医療、最先端の高度医療設備・機器、柔軟な患者動物受入対応、チームによる診療体制などを強みとしている。患者動物に最適な検査・診断・治療を迅速に提供できる高度医療専門の総合動物病院への参入障壁は高いため、同社にアドバンテージがあり、競合リスクは小さいと考えられる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 水田雅展)
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