日本電技 Research Memo(5):次期中期経営計画での成長戦略が期待される
1. 2021年3月期第2四半期の業績動向
日本電技<1723>の2021年3月期第2四半期の業績は、受注高20,662百万円(前年同期比12.7%増)、売上高12,113百万円(同11.4%増)、営業利益779百万円(同8.5%減)、経常利益が834百万円(同6.5%減)、親会社株主に帰属する四半期純利益は564百万円(同7.2%減)と増収減益となった。新型コロナウイルスが大きく広がったのが2020年2月以降だったことから、同社は当初厳しい想定をしていたもようだが、その割に順調な進捗になったと考えている。なお、業態の特性上、工事の完成引渡しが第4四半期に集中するため、第4四半期の売上高が第1四半期から第3四半期に比べ著しく大きくなるといった季節的な傾向がある。このため、第2四半期の利益進捗率が20%程度と低くなっている。
事業別の業況は、空調計装関連事業の受注高が18,180百万円(前年同期比13.2%増)、売上高が10,044百万円(同5.0%増)、産業システム関連事業の受注高が2,482百万円(同9.2%増)、売上高が2,068百万円(同57.7%増)となった。空調計装関連事業については、受注工事高のうち新設工事で研究施設や事務所向け、宿泊施設向け物件などが増加、既設工事では工場向け物件などが減少した。完成工事高では新設工事で事務所やデータセンター向け物件などが増加、既設工事では研究施設向け物件などが減少した。産業システム関連事業については、受注工事高で産業用ロボット関連工事や省エネ関連工事などが順調に推移、完成工事高では地域冷暖房関連設備の計装工事や設備工事が順調に推移した。なお、新型コロナウイルスの影響により、春先に工事現場への立入りが制限され、第1四半期を中心に営業ができるような環境でなかったのも事実である。このため、当初、弊社では売上高、利益とも厳しく見ることになった。しかし、結果的に売上高が順調に積み上がって2ケタ増収となったことに加え、一般的に完成工事の利益率が厳しいと言われる大型の案件が多かったこと、アズビルが久々に新製品を投入したため作業がやや煩雑になったことから、順調な進捗と考える。さらに、前年同期に好採算の大型案件があったこと、需要が非常に強く選別受注に近い状態になっていたことなど、利益率の低下も新型コロナウイルスによらない要因が多かったことから、新型コロナウイルスの影響が想定ほど大きくなかったと判断できることも理由に挙げられる。
上方修正したものの、下期も保守的な前提に見える
2. 2021年3月期の業績見通し
2021年3月期の業績見通しに関して、同社は受注高30,500百万円(前期比1.0%減)売上高32,000百万円(同2.2%増)、営業利益4,200百万円(同5.1%減)、経常利益4,250百万円(同4.8%減)、親会社株主に帰属する当期純利益2,930百万円(同8.0%減)と見込んでいる。当初業績見通しに対して想定以上に順調な進捗となったため、第2四半期において、通期業績見通しを営業利益で650百万円、経常利益で650百万円、親会社株主に帰属する当期純利益で470百万円上方修正した。
2021年3月期業績の当初前提は、売上高に関しては、新型コロナウイルスの第2波、第3波による工事現場の閉鎖などがなく、受注済み案件の着実な完成計上により微増収を見込んでいた。利益面では、受注済み案件の売上計上につれて確保できる見通しだったが、景気悪化に伴う設備投資の減少が予想されたことから採算悪化を懸念していた。このため大幅な減益予想となっていたが、実際の進捗は新型コロナウイルスの影響が想定ほど大きくはなかった。そこで同社は業績を上方修正したのだが、売上高予想は、新型コロナウイルス第1波のなかで一部既設工事が先送りとなったものの、工事現場の閉鎖がほとんどなかったため当初見通しと同額となった。しかし利益面では、新型コロナウイルスの影響が想定より軽微で済んでいることから、もともと非常に保守的に見ていた前提をやや緩和したようだ。だが、採算のよい比較的工期の短い工場向け案件の受注・売上については、例年通り保守的に見ていると思われることから、通期の業績予想も依然保守的ということができる。
次期中期経営計画での成長戦略が期待される
3. 中期成長イメージ
同社は、2021年3月期に受注高31,000百万円(空調計装関連事業26,000百万円、産業システム関連事業5,000百万円)、売上高30,000百万円(空調計装関連事業26,000百万円、産業システム関連事業4,000百万円)、営業利益3,500百万円を目指していた。しかし、業績好調により2020年3月期に1年前倒しで達成、コロナ禍の中、2021年3月期も利益目標をクリアする勢いである。中期経営計画がこのように速いスピードで達成したのは、1)効率重視の事業展開、2)顧客との関係強化の推進、3)戦略的受注の徹底、4)ニーズに応える技術力強化と領域拡大、5)働き方改革への対応——という5つの重点戦略を着実にこなしてきたことが背景にある。このため同社は今後も重点戦略を継続していくものと思われるが、一方で需要に対するキャパシティ不足という課題も挙がってきた。同社では工事に人が付くため、人員数が案件獲得のボトルネックになっていた。しかし、同社は既に対策を講じており、人員の強化に乗り出した。教育期間は必要だが、増加が予想される東京都心部を中心とした再開発事業において、中期的に空調計装の受注獲得増につながると期待される。このため、ここ数年300億円前後にとどまっていた売上高だが、350億円前後は十分ターゲットになるように思われる。
長期的には、既設工事の積み上がりは期待できるものの、少子高齢化などから新規のビル建設が鈍化することが予測されている。そうなると人員的にオーバーキャパシティになってしまうことが懸念される。しかし、現在はまだ規模の小さい産業システム関連事業が着実に成長しており、また、産業システム関連事業がターゲットとする食品工場はすそ野が広いことから成長余地が大きい。したがって、空調計装関連事業から産業システム関連事業への人員シフトが進めば、空調計装の安定収益と産業システムの利益成長を同時に享受することができると考える。また、産業計装のすそ野が広いということは、システム開発など計装周辺の事業も開拓可能ということになる。これは、ジュピターアドバンスシステムズのグループ化によって、産業計装におけるシステム開発と取引先獲得の点で既にシナジーが生じつつある。加えて、例えば機械メーカーを傘下に入れるなど垂直統合ができれば、計装・システム・機械とワンストップで工場の自動化を請け負うことが可能となる。案件獲得の強化策となる上、内製化により収益性も向上するだろう。新型コロナウイルスの影響が短期で収束することを願うが、これまで述べてきたように、短・中・長期的に同社の事業環境は良好と言うことができる。こうしたことを念頭に将来の状況を想定すれば、同社の中長期的な成長イメージはおのずと高まってくる。順当であれば2021年春に公表される次期中期経営計画が楽しみになる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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