オンコリス Research Memo(7):テロメスキャンはCTC自動検出システムを2020年内に完成予定
4. テロメスキャン
(1) 概要
テロメスキャンは、アデノウイルスの基本構造を持ったテロメライシンにクラゲのGFPを組み込んだ遺伝子改変型アデノウイルスとなる。テロメラーゼ陽性細胞(がん細胞)に感染することでGFPが発現し、緑色に蛍光発光する作用を利用して、がん転移のプロセスに深く関与するCTC(末梢血循環腫瘍細胞)を高感度に検出する。検査方法としては、患者の血液を採取し、赤血球の溶血・除去後にテロメスキャンを添加しウイルスを感染させる。感染により蛍光発光したGFP陽性細胞を検出、CTCを採取する流れとなる。これまでPET検査などでは検出が難しかった直径5mm以下のがん細胞の超早期発見や、転移・再発がんの早期発見のための検査薬としての実用化を目指しているほか、検出したCTCを遺伝子解析することによって個々の患者に最適な治療法を選択する「コンパニオン診断」※としても将来期待されている。
※患者によって個人差がある医薬品の効果や副作用を投薬前に予測するために行なわれる臨床検査のこと。薬剤に対する患者個人の反応性を遺伝子解析によって判別し、最適な治療法を選択できるようにする。新薬の臨床開発段階でも用いられる。
(2) 開発状況
テロメスキャンの開発に関しては、課題であった目視によるCTCの検出時間を大幅に短縮するため、2020年6月にAI技術開発のベンチャーである(株)CYBO(以下、CYBO社)と共同開発契約を締結し、AI技術を用いたCTC自動検出システムの開発に取り組んでいる。CYBO社は細胞画像をAIで解析して目的細胞を分取する革新的な画像活性セルソーター(ENMA)や、高速自動顕微鏡(SHIGI)などを活用して、CTCの自動解析用ソフトウェアを2020年内に完成させる予定となっている。実用化されれば今まで4~5時間要していた検査工程が数分程度で可能となり、実用性が格段に向上することになる。既に、AI判定と目視による判定結果の一致率は90%以上の水準となっており、完成まであと一歩のところまできている。同社ではソフトウェア完成後に、提携先の米リキッド社でシステム評価を行い、問題がなければ潜在需要が大きいアジア地域でのライセンス活動を展開していく予定にしている。
また、アカデミアとの研究開発も国内外で進んでいる。順天堂大学や米NRGオンコロジーとは肺がん患者の術後のCTC検査を定期的に実施し、CTCの増減をチェックすることで投与された治療薬の効果の有無を確認している。CTCの数が減っていれば治療効果があるが、逆にCTCが増えていれば違う治療法を選択する際の判断材料となる。また、アーリーステージの肺がん患者の超早期発見がAI技術で可能かどうかも今後、研究していく予定となっている。ペンシルベニア大学の臨床研究によれば、アーリーステージの患者におけるCTCの検出率はテロメスキャンで90%以上(他の検査薬は10%程度)となっており、AI技術によって短期間で検査できる体制が整えば、肺がんの診断薬として普及が進む可能性も出てくる。
また、リキッド社がニューヨーク大学と共同で2019年より開始した子宮頸がん検査の臨床試験は、子宮頸がんの発症原因となるHPVウイルスがCTCにのみ存在することを利用して、発症の有無を診断する試験となる。従来、子宮頸がん検査は子宮頸部の細胞を採取する必要があったため患者の身体的負担が大きく、受診率が低い要因となっていた。テロメスキャンは血液検査のため受診がしやすく、子宮頸がんの早期発見に役立つほか術後再発も容易に検査できるようになり、医療費全体の削減につながる効果も期待されている。
なお、テロメスキャンの改良型であるテロメスキャンF35については、AIによるCTC自動検出技術が確立されれば、その長所が打ち消されることになるため※、今後はテロメスキャンに特化して事業展開していくものと予想される。
※テロメスキャンF35ががん細胞のみに反応して蛍光発光する(ただし、輝度は低い)のに対して、テロメスキャンは白血球も若干発光するため、白血球を事前に除去する工程が必要であったが、AI自動検出技術が確立されればCTCと白血球も分別することが可能となる。
(3) 競合状況
テロメスキャンのターゲット市場となるCTCの検査市場では、現在米VeridexのCellSearchシステムが唯一欧米市場で販売承認を受けており、乳がん・大腸がん・前立腺がんのCTC検出において使用されている。また、CTC検査だけでなく血中循環腫瘍DNA(ctDNA)検査など遺伝子検査技術を開発する企業も増えてきており、競争が激しい市場となっている。
こうしたなかで、テロメスキャンは肺がん細胞を始めとするほとんどのがん種において、CTCの検出が可能なほか、生きているCTCや悪性度の高い間葉系がん細胞も捕捉できることが特徴となっている。また、がん転移後のCTCを分析することで患者ごとに最適な治療法が選択可能となるコンパニオン診断としての活用も将来的に見据えている。今後、臨床試験により更なるデータを蓄積するとともに、CTCの自動検出システムを完成させることで検査工程における生産性を飛躍的に向上し普及拡大を目指していく考えだ。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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