エノモト Research Memo(7):真似のできないものづくりを追求
1. 中期経営方針
エノモト<6928>は、2017年3月期から2021年3月期までの5年間の、事業運営の指針となる中期経営計画を策定している。中期経営方針として「新たな価値の創造~他社が真似のできないものづくりを追求する~」を掲げ、同社が培ってきた技術力を最大限に活用し、さらに上のステージへ踏み出していくための決意が込められている。そのため、年度ごとに経営重点テーマを設定しており、2017年3月期は旧来の方法にとらわれない「現状打破」、2018年3月期は従前の思考・体質から踏み出す「勇気」、2019年3月期は自信を持って自分の力を発揮する「底力」、そして2020年3月期は「“学ぶ”Acquire」——を掲げている。大きな中間目標でもあった東京証券取引所1部上場は達成し、それに伴う経営基盤の盤石化も進展してきたことから、そろそろ次の中期目標を策定するタイミングに入ったかもしれない。仮に策定されれば、基本的には経営基盤の盤石化は変わらず、1部上場企業として将来を見越した人材育成・確保、加えて5Gなど新たな環境への対応や他社との連携、新規事業の実現へ向けた動きなども視野に入ってくる可能性があると思われる。
各製品群とも中期成長余地は広がる見通し
2. 中期成長イメージ
中期的には、産業機械やサーバー向けなどIoT需要の増加や、EV(Electric Vehicle)・自動運転技術などを視野に入れた自動車の電装化率の上昇などを背景に、IC・トランジスタ用リードフレームの市場は成長が見込まれる。特に車載用では、モーターやセンサー、軽量化など改善課題が非常に多く、同社の技術が各所で利用されると思われる。東京オリンピック向けに一巡感のあるオプト用リードフレームの市場は、中長期的な設備投資動向から回復~堅調な推移が期待される。コネクタ用部品の市場は、スマートフォンの爆発的な伸びがなくなって徐々に買い替え需要へシフトしていくとの予測から、スマートフォン向け部品の需要変動がさらに大きくなる可能性があると考えられている。一方、5G関連の設備投資のタイミングも視野に入ってくる。スマートウォッチなどウェアラブル向けの需要も大きくなってきた。特にウェアラブル製品に利用される、実用としては最小クラス0.3mmという微細なコネクタを、継続的・安定的に数千万個~億個単位のロットで生産できるのは、同社を含めて日系数社しかいないもようである。このように、超精密化など機械・機器の技術的要求は今後強まるばかりであるため、対応できなくなる企業がますます増え、同社の中期的な成長余地はさらに大きく広がっていくと予想される。
実用化に一歩近づいた水素燃料電池基幹部品
3. 「ガス拡散層一体型金属セパレータ」
どの会社もそうであるように、同社も新規事業のシーズをいくつか抱えている。その中で、山梨県及び山梨大学との共同開発で2020年の実用化を目指している、PEFC(固体高分子形燃料電池)用の新型の「ガス拡散層一体型金属セパレータ」の開発がユニークで、まさに中期経営方針「新たな価値の創造~他社が真似のできないものづくりを追求する~」を地で行くようだ。
セパレータとは水素と酸素の化学反応を利用して発電する燃料電池スタックの基幹部品のことで、同社は、山梨大学の理論に基づき、「コスト半減、性能2倍以上」を目指してセパレータの小型化・低価格化を推進している。現在、汎用ステンレス材にカーボンを主成分としたコーティングを施し、高耐食性を実現、さらにガス拡散性に優れたカーボンペーパーに代わってセパレータ自体に廉価なガス拡散層とガスケットの機能を併せ持たせることで、部品点数の削減や薄膜化を実現した。実用化に向けて現在、量産技術の確立や製造コストの削減、生産品質管理体制の構築を進めているところである。実験装置では既に「コスト半減、性能2倍以上」という結果が出ている。実用化すれば、燃料電池車や家庭用燃料電池など広範な社会生活に利用されることが見込まれ、「エネルギー革命」と言ってよいほどのインパクトを社会に与えることが予想される。
これまでの経緯は、2014年7月に「水素社会に向けた『やまなし燃料電池バレー』の創成」事業に参画、山梨県及び山梨大学との産・官・学共同事業をスタートさせた。2015年2月に新型セパレータの開発に成功。2017年7月には「地域イノベーション・エコシステム形成プログラム」(文部科学省支援施策認定取得)の認定を受けた。しばらく間が空いたが、2019年9月に、水素に係る研究開発及び製造ラインの確立のため、資金をグリーンローンで調達した。これには2つの意義があると考える。1つは、これまで小型実験装置で実験を重ねてきたが、いよいよ実用サイズでの実験やその後の施策を進めるため、新たな投資をするステージに入ったという点である。最終的には車に搭載することが目的のため、実現するまでにまだ数年はかかりそうだが、大きなに一歩と言えるだろう。
もう1つが、新たな水素燃料電池スタック及びシステムの創出を通じて水素燃料電池自動車などへ技術を展開することで、環境に配慮した水素社会の実現に貢献できる可能性があるという点が評価されたことである。これはまた、「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現を目指すSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の観点からも、評価できる内容と言える。SDGsには17の目標があるが、そのうち「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」「産業と技術革新の基盤を作ろう」「気候変動に具体的な対策を」「パートナーシップで目標を達成しよう」という4つの目標に符合するからである。「ガス拡散層一体型金属セパレータ」の実用化は、同社の業績のみならず、社会環境にも非常に大きなインパクトを与える可能性があると言うことができる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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