ベネ・ワン Research Memo(3):事業環境の変化がBPOサービスの追い風に
(2) BtoB事業(BPOサービス)
新たな国策の施行など、企業を取り巻く環境に大きな変化が生じている。企業は社内のリソースだけで対応することがますます困難になっているため、BPOサービスの需要拡大に追い風が吹く。マクロ環境の変化として、人手不足、ヘルスケアに関する国策、ガバナンス強化が挙げられる。
企業は、経営リソースを自社のコア業務に集中し、福利厚生業務などをアウトソーシングする傾向が強まっている。多様化するニーズに、自前の施設や画一的なサービスで応えることが難しく、ES(従業員満足度)向上策として、専門業者への外注(BPO)シフトが加速することが予想される。ヘルスケアに関連する国策が、この2、3年で大きく変わった。国は、企業に対して従業員の健康管理を経営的視点から捉えた「健康経営」への取り組みを促している。健康保険組合には、レセプト等のデータの分析とそれに基づく加入者の健康保持増進のための事業計画として「データヘルス計画」の作成・公表、事業実施、評価の取り組みを求めている。2014年の改正労働安全衛生法では、ストレスチェックの義務化を法制化した。そして、従業員の健康づくりへの運動や食生活改善、健康診断の受診や結果に応じた特典などにポイントを付与する「健康ポイント制度」が始まった。地方自治体による同制度の導入が活発化している。
コーポレートガバナンスを強化する方向に会社法が改正され、企業統治を実行する規範としてコーポレートガバナンス・コードが策定された。経費削減とガバナンス強化の一環として、出張費をはじめとする経費の見える化が促進されている。
BPOサービスの商品戦略として、社員向けサービスは従来の福利厚生、報奨、健康に、金融、教育、レコグニションを加える。人事担当者向けでは、給与計算だけではなく、評価とタレントマネジメントを追加する。人材管理クラウドサービスを提供する日本オラクル<4716>とのアライアンスによりサービスメニューを増やす。総務担当者向けでは、出張精算と小口精算を提供する。これらはすべて人事データを核としている。
サービス戦略においては、職域で得られるビッグデータを活用した、新たな付加価値・市場創出を目論んでいる。企業からの人事データや会員利用データの蓄積・分析により、会員個人に向け最適なサービスを提案していく。401kやFinTech関連商品のインフォメーションサービス、あるいは健康ポイントサービスの実施等を具体的な構想として挙げている。商品販売が目的ではなく、会員本人のための情報を無償提供することで、サービスクオリティーを向上させ、リテンションを高めることが狙いだ。
○個人型DC事業へ参入
(株)お金のデザインと共同で個人型確定拠出年金(個人型DC)事業に参入している。個人型DCは、2017年1月より加入範囲が自営業者から企業年金の加入者、公務員、専業主婦などに広がり、新たに約2,700万人が利用できるようになる。個人型DCには大きな節税メリットがある。掛け金は全額が所得控除されるため、所得税と住民税が減額される。仮に会社員が上限の月額2万3000円を拠出すると、課税所得が300万円で所得税率10%、住民税率10%の場合、減税額が年間5万5200円となる。所得税率が高い人ほど、節税額は大きくなる。同社は、福利厚生サービスで中央官庁との取引も多く、個人型DCでも営業攻勢をかける。アライアンス先の培った知見を活かし、個人の最適な資産運用をサポートする。
○BPOポータルサイトに関する構想
欧州市場を中心に、社員向けポータルサービスが台頭している。同社は基本機能を無償で提供し、有償BPOサービスをシームレスで利用できるようにする。各種ポイントを共通化して利便性を高める。主力の福利厚生アウトソーシングサービスを利用する企業は2016年9月時点で6,540社を数える。ワンストップソリューションにより、企業の経営効率化と従業員の満足度向上に貢献する。
以下に、同社の各事業の特徴と強みについて紹介する。
a)福利厚生事業
同社は、多彩な福利厚生メニューを用意することで、利用者の多様化するニーズに応えている。ユーザー課金型サービスのため、常にユーザー側に立った、ユーザーの課題を解決するサービスを提供するようにしている。会員企業は、多種多様な福利厚生制度の構築や運用にかかる面倒な事務作業の手間も軽減することができる。複数拠点で事業を運営する企業にとっては、地域間格差が縮小するメリットがある。
同社の総合福利厚生サービス「ベネフィット・ステーション」は、下記のように多岐にわたるジャンルのサービスを数多くそろえている。
▶ リゾート&トラベル(宿泊・ツアー)
▶ ライフケア(育児・介護・健康管理)
▶ ライフサポート(冠婚葬祭・住宅・自動車購入・引越)
▶ スポーツ(フィットネス・ゴルフ・テニス・ダイビング)
▶ スクール&カルチャー(資格・語学・OAスクール)
▶ リラクゼーション(マッサージ・エステ)
▶ ビジネス(研修所・社宅管理)
▶ レジャー&エンターテイメント(グルメ・遊園地・テーマパーク)
▶ ファイナンス(ローン・保険・資産運用)
同社自身がサービスを提供する事業者ではなく、福利厚生会員とサービス提供事業者の間に位置し、サービスをマッチングするサイトとして機能する。サービス提供にあたってのインフラ機能が整備されているため、会員数の増加、サービスメニューの拡大などに連動するコストの上昇は限定的になる。
学生の就職先を決める理由に関する調査では、「福利厚生の充実」が「給与・待遇」より上にランクされている。小売業や外食産業では、社員やパートアルバイトに福利厚生を提供することで定着率の改善を図る動きが強まっている。中堅・中小企業は、同社のBPOサービスを利用することで、従業員規模にかかわらず低コストで大企業並みの福利厚生が実現できる。代理店施策の充実やセミナー、ダイレクトメールの活性化などにより、中小企業からの新規獲得を促進する。
○カフェテリア型総合福利厚生サービス
従来の「定食型」では利用したいメニューがない、もしくはいつも同じメニューで飽きてしまうという悩みに、同社の「カフェテリア型」は応える。多彩なメニューから自由に選ぶことができるため、企業は各従業員の多様なニーズに対応し、高いES(従業員満足度)が得られる。公平にポイントを付与することで、福利厚生格差も是正できる。また、ポイント設定ルールにより、各社の福利厚生の意向を反映することができる。
b)インセンティブ事業(モチベーション向上支援サービス)
同社は、日本初のインセンティブ専用のポイントプログラムを展開している。同社と契約した企業が、インセンティブ・ポイントを営業職社員や代理店等に付与する。最近では販促インセンティブ目的のみならず、採用強化や離職率削減及び定着率の向上による採用コストの削減、優秀な人材の確保、評価機会の拡大、従業員のモチベーションアップ、営業力の底上げ、キャンペーン効果の引上げなど活用の範囲が広がっている。パート・アルバイト向けの導入メリットは、時給に代わる効果的なモチベーション向上策として、雇用期間の長期化、職場のコミュニケーションの向上などがある。オリジナルなメッセージに込められたサンクスポイントにより、従業員同士のコミュニケーションの活発化に寄与することも可能だ。
導入実績は、2016年11月時点で320社を超えており、110万人以上のモチベーション向上に寄与している。代表的なところでは、携帯電話通信事業者や生損保、自動車販売関係、医薬品会社、外食企業などである。
インセンティブ・ポイントの交換アイテムは、全21カテゴリー、約20,000メニューをそろえている。年齢・性別を問わず、幅広い層のライフスタイル・趣味嗜好に対応でき、同社のスケールメリットを生かした、お得なアウトレット価格や特典が利用できる。単なる「モノ」だけでなく、ユーザーの心に残るプレミアムな体験ができるサービスも充実している。
c)ヘルスケア事業
ヘルスケア事業は、健診サービスから特定保健指導、データヘルス計画等、健康関連のサービスをワンストップで提供している。事業環境としては、2008年の特定健康診査及び特定保健指導の義務化から始まり、2015年度からデータヘルス計画の義務化、2015年12月からストレスチェックの義務化と続く国策が追い風となっている。
背景には高齢化と生活習慣病の増加がある。日本人は生活習慣の変化等により、近年、糖尿病等の生活習慣病の有望者・予備群が増加しており、死因の約3分の1を占めると推計されている。特定健康診査は、メタボリックシンドロームに着目した健診である。特定保健指導は、その診査の結果から発症リスクが高く、生活習慣の改善による予防効果が期待できる人をサポートする。データヘルスは、特定健康診査や診療報酬明細書(レセプト)などから得られるデータの分析に基づいて、効率の良い保健事業を行うことである。厚生労働省は2015年度から、すべての健康保険組合に対し、データを活用した科学的なアプローチにより事業の実効性を高めるデータヘルス計画の作成と実施を義務付けている。
2015年12月に義務化されたストレスチェックでは、精神的疾患と生活習慣病が別々の問題ではなく関連していることが明らかになってきているため、同社では健診データとストレスチェックを掛け合わせたチェックプログラムを提供する。また、企業や健保で行われる健康増進の取り組みに対し、インセンティブを起点とした健康づくりのプログラムも提供。政府は、健康ポイント(個人に対するヘルスケアポイント付与)について充実させる方向性を示している。同社グループは、インセンティブ事業も手掛けているため、得意とするサービスとなるだろう。
d) BTM事業
BTM(Business Travel Management)の利用は、出張にかかる直接経費の削減だけでなく、間接コストの削減やコンプライアンス強化につながる。同社のキャッシュレスで一括管理を可能とする「出張ステーション」は、3つの導入メリットがある。それらは、法人契約の特別割引料金を利用して旅費・宿泊費を削減できる「直接経費の削減」、Web手配(24時間可能)・個人の立替不要・会社一括精算により業務を大幅に削減する「間接経費の削減」、出張データを一元管理・可視化できるため、カラ出張などの不正を防止する「コンプライアンス強化」である。
同事業は現時点での収益は小規模なものの、経営者のコンプライアンス意識の高まりとともに需要が急拡大しており、商品力と営業力を強化している。国内ではマージン率の高い出張専用宿泊施設との直接提携を強化することで取扱いを伸ばし、収益性を高める。次は、これまで手掛けていなかった海外も、航空券・宿泊の手配体制を整える。
e)ペイロール事業
BPO事業強化の一環として、2015年8月に給与計算業務のアウトソーシングサービスを行う新会社ベネフィットワン・ペイロールを設立した。同子会社は、パソナグループ各社とベネフィットワングループ各社の給与計算と勤怠管理業務を担うシェアードサービス機能を持つ。このペイロール機能を外販し、中堅・中小企業73万社をメインターゲットとしている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 瀬川 健)
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