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ソレイマニ司令官殺害から見るイラン・イラク・アメリカの立ち位置(1)【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】


イランの前提となる行動方針とその理由
イランと中東との地理的な関係性を考えると、イラクはイランにとって中東への陸路としての入り口であるとともに、イランと同様にシーア派が多数である非常に「工作がしやすい」地域である。あらゆる国家が戦略的な距離を取りたがることを考えると、イランと中東のスンナ派地域の間に緩衝地帯、バッファーゾーンを作りたがるのは必然。このイランの特性を前提として、イランの動きを考える必要がある。

ソレイマニ司令官殺害でイランはどう出るのか
足もとでは、イランの経済は制裁が効いている。いくらロシアや中国との連携を通じて何らかの抜け穴を作っていたとしても、経済が弱くなりつつあり、インフレも進んでいる。国力に対するダメージは本物であることは強く推察できる。この背景もあり、イランは革命防衛隊のコッズ部隊などを通じて、中東でのシーア派コミュニティを基軸とした武装組織を支援することにより、地域影響力を獲得することに余念がない。むしろこのような手段でしか戦略的な距離を取れない。

このような状況下、イランは限定された地域覇権のための動き・工作をできる「程度」の力はあるが、通常戦争、しかも米国相手は経済制裁の影響などによりあまり考えられない。逆に、低強度紛争を長期にわたって維持する程度の力と影響力はある。

イランの外交対応については「対西側」で紳士的、「対中東」でいくらでも残酷になれるという二面性を持っていることも念頭に置くと、全般的に中東をひっかきまわすことをメインに行動すると考えられる。したがって、西側諸国や中東の地域大国を全て敵に回したタンカー戦争のようなことをイラン側が先制的にやるとは考えにくいし、そのタンカー戦争をやるために米国による直接攻撃に対抗するための本国防衛と、長期戦略としての中東地域工作に必要なリソースを割くとも考えにくい。ただし、中東をひっかきまわす行動の一つとして、一部油田に対する限定的な攻撃はオプションとして残る。いずれにしても、どのオプションが採用されるかは、イランのバランス感覚と地域・外交情勢によって完全に左右される。

今まではイランの支援があった民兵がやったことや、もしかすると革命防衛隊の特殊部隊がやったことを知らぬ存ぜぬとして通していたことを、今後については面子のためにも「イランが指導した」「革命防衛隊の大活躍」と宣伝する可能性がある。実際、1月8日にアメリカ軍基地に対してイランが弾道ミサイルと自称しているものを発射して、これはイランの「手柄」であることを大々的に国内でも宣伝している。

ただし、原則としては工作を時に派手に、基本的に静かに中東情勢を引っ掻き回す形で、ヒズボラなどイラン寄りのシーア派による基盤の強化を目指すと思われる。長期的に見ると、確実な基盤強化のほうが利益を生むためである。そもそも、2021年までにはトランプ政権の第二期、よって「タフガイ」を演じる必要性が低くなった時点で「ディール」をするのか、緊張緩和に前向きな民主党政権までイランにとっての戦略的な忍耐を貫くことも計算の内であると見られる。

トランプが在任中でイランの現政権がそのまま居座る場合は、ソレイマニ司令官殺害によって顕在化した問題は長引くものと見られる。


イランのさじ加減
イランの行動があからさま(よってニュースになりやすい派手な動き)になるかもしれないが、むしろ紛争よる犠牲者の規模が今までと変わらない、むしろ減るという可能性も捨てきれない。核関連の合意も「破棄」するような行動をとるものの、核兵器所有のレッドラインの一つであるNPT脱退までいかないのだろう。イランにはバランス感覚があるため、相手が全力を挙げてつぶしにかかるための口実、先制したというふうに見られる致命的なことをやらないということが理由だ。最低でもそのような事態は、自分たちでコントロールできる範囲で起こさせないと考えている。

1月8日の弾道ミサイル攻撃も、一時的な米国に対する平手打ちで、イランのバランス感覚が見られる。犠牲者を一人も出さないように狙いを定めたと思われる他、これ以上のことがなければイランも追加攻撃をしないという書簡を送っている。

他国との連携
ロシアと中国の連携、中国による北朝鮮の支援は、いずれも国境を接していることから、連携や制裁逃れを容易にしている。イランの場合は、ロシアと中国と国境を接していないため、決定的にアメリカの制裁を逃れることができない。陸地を接していない国境をまたぐ物の動きをアメリカは見逃さない。ロシアや中国とイランが連携を行うことを宣言しても、同盟などの強い外交関係を築かない限り、イランを救えるようなものにはならない。そもそも、国境を接していないため、制裁回避のための手段は必然とコストが高くなる。このような状況を考えると、イランが中国やロシアに提供できる「餌」のオプションもほぼ資源と対米姿勢しかないため、中国やロシアがアメリカのより強い経済制裁のとばっちりを受ける可能性を甘受しながら、決定的に深入りを決心できるのかが不透明である。

しかし、中国・ロシアにとって、確実にイランがなびくというのは中東におけるアメリカの梃になることは確実であるためこれを使わない手はない。ただし、中東の複雑なダイナミック(宗派なども含む)で一方の肩を持つことは難しいと思われるため、特にロシアは調停の大国として中東に君臨するというのが基本戦略になると考えられる。

イラクの立ち位置
イラク内での米軍の活動はイラク側によって認められているため国際法違反でないとも言えるが、ソレイマニ司令官殺害の行動は国際法違反という批判も出ている。ソレイマニと一緒に殺されたアブ・マフディ・アル・ムハンディスは(シーア派民兵でイランとの関係が深い)カタイブ・ヒズボラの指導者であると共に、イラク国家によって承認されている民兵組織「人民動員隊」の副司令官でもあるため、ここの問題を通じてイラクは主権が侵されたという主張ができる。実際、イラクは米軍に撤退するよう求める議会決議と、撤退を「お願い」するスタンスを取っている。

しかし、過激派組織ISILがまた活動を再開していると言われている状況で、本当に米軍の撤退を実現可能なのかが疑問として残る。イラクの立ち位置が難しいのは、どうしてもイランとアメリカの思惑、そして自国内の宗派の異なる感情の板挟みになってしまうからである。いくらシーア派多数の国であっても、イランの操り人形になることに抵抗感を覚えるのは独立国して自然な感情である。イランとアメリカ両方を敵に回すことはできないが、今までの経緯からくる反米感情も考えると、政府スタンスとしては米軍に撤退して欲しいという言動をすることだけにとどめると思われる。

あまりにもイラン(シーア派)に有利な行動をした場合、今度はスンナ派がISILのようなスンナ派過激組織に身を寄せる口実を作るため、何かをやったら別の宗派か国の気分を害し、下手をするとイラクに敵対する武装勢力が沸いてくるという状況にある。

地経学アナリスト 宮城宏豪
幼少期からの主にイギリスを中心として海外滞在をした後、大学進学のため帰国。卒業論文はアフリカのローデシア(現ジンバブエ)における経済発展と軍事支出の関係とその周辺の要因についての分析。大学卒業後は国内大手信託銀行に入社。現在、実業之日本社に転職し、経営企画と編集(マンガを含む)も担当している。歴史趣味の延長で、日々国内外のオープンソース情報を読み解いている。

「ソレイマニ司令官殺害から見るイラン・イラク・アメリカの立ち位置(2)」へ続く



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