12年間にわたり世界中をめぐっている著者が、現地の健康&食べもの情報を毎週お届けします。
2015年の夏に稚内港を出奔し、苦節2年と4ヶ月。
とうとう南アフリカのケープタウンにたどり着きました。
71,799kmを運転したYoshiです。
無事故4違反3罰金、車に尾行されること数回、警察や国境における賄賂・カツアゲは数知れず。
パンク5回、うち2回はタイヤが破裂。
なんと、ゴールインした日のケープ新聞のトップ記事は、「Where is Yoshi?」。
Yoshiはわたしですっ、わたし!
もしかして、サプライズ・パーティがあるかもってあたりを見渡したら(文末に続く……)
塩分を摂りすぎて、高血圧になるものか!
ケープタウンでクリスマスと正月を迎え、ひと月半ほど滞在します。
長期滞在するときに必ず作る定番メニューがありまして、スパゲティ・ボロネーゼ。
実は来年、友達が担々麺の専門店をオープンするのですが、そこで出してもおかしくないだろ的に自信がある一品です。
牛のひき肉400gにニンニク多め。玉ねぎとトマトを狂ったように刻み、メキシコで仕入れた唐辛子を加えて、12食分のスープを一挙に仕込みます。
じっくりと煮込んで、最後に塩。
この塩が門外不出の秘伝です。イランの塩鉱山で拾ったかぼちゃほどある大きな塊。消しゴム程度の大きさに砕き、おろし金で削ります。
イラン人の友達が、ぺろりと舐めてからくれた塩です。「うん、美味い。持ってけ」って。食べる前に洗いました。
「イラン天然削り塩」に正体不明の旨み成分が隠されていると睨んでいるのですが、直接鍋の上で削っているので、どのくらい降りかかっているのかがわかりません。
削っては味見し、削っては味見を繰り返し、舌が麻痺したころに「こんなもんですかね?」ってフィニッシュしています。
足りないより多い方がいいだろ的な目分量で、たぶん塩多め。
最近、階段を上るだけで心臓がバクバクするものですから、こんなに塩を摂ったら体によくないのではと心配になって、日本高血圧学会のホームページを訪ねてみました。
学会の呼びかけは、高血圧の予防のために食塩を制限しよう!
「塩分の摂りすぎ→高血圧→ぽっくり」と頭に浮かび、塩分を控えねば死ぬまで生きられないと悟った刹那、真っ向から対決する一派から「待った!」がかかりました。
「塩は高血圧の犯人じゃない!」の登場です。
塩をめぐって、まさに血圧が上がりそうなしょっぱい戦いが繰り広げられていたのです。
塩をたくさん食べて、長生きしよう!
「塩は高血圧の犯人じゃない!」の論より証拠は、長野県です。
「塩分の摂りすぎ→高血圧→ぽっくり」を鮮やかに否定してくれました。
長野県の女性は食塩摂取量で日本一、金メダルに輝きながら、県別高血圧ランキングは32位とそこそこ健康なのです。しかも、ご長寿ランキングは日本一です。
男性陣も食塩摂取量は3位という銅メダルですが、長生きランキングは2位。
なんなら、塩を食って長生きしよう!という生き証人です。
「塩の摂りすぎ→高血圧」派の厚生労働省によると、”日本人は諸外国に比べて塩分を摂りすぎている”と警告してくれますが、そもそも世界一長生きする日本人なわけですよ私たち。これ以上長生きしてナニすんの?って話です。
また、日本人の塩分摂取量は年々減っているのに、高血圧の人が増えているという動かぬ証拠もありまして、「塩分摂りすぎ→喉が乾く→水の飲みすぎ→血が増える→ほらっ、血圧上がった!」の黄金式もまた、あてにならんのです。
精製塩vs天然塩の戦いは、官vs民!
塩をめぐっては、「精製塩」vs「天然塩」という「官」vs「民」の代理戦争があります。
精製塩とは科学的に作られた塩化ナトリウムで、日本専売公社(のちのJT)が製造販売していたので、言ってみれば「官」。
対する天然塩とは、天日塩や岩塩などいくつかのタイプがありますが、庶民が手塩にかけた愛情あふれる一品って感じがしなくもないわけで、「民」。
世界史的には国が塩を独占管理するのはよくあることなのですが、日本では日露戦争の財源欲しさに、塩を政府の専売にします。
昭和の時代に、民間による塩製造を禁止。
御上の仕事といえば効率一辺倒ですから、「イオン交換膜」という聞くからに愛のなさそうな方法で製塩。塩といえば、塩化ナトリウムになったのです。
愛のない塩に、旨みがあるものか!
塩における愛とは、ミネラルです。
塩のミネラルといえば「にがり」のことで、マグネシウム、カリウム、カルシウムが含まれます。
しかし、官による精製塩は塩化ナトリウム99%以上なので、ナトリウム以外のミネラルはほぼゼロ。塩辛いだけです。
塩辛いならそれでいいじゃんって気がしますが、各ミネラルをバランスよくとることで、カラダの調子を整え、高血圧を防ぐというのが、民による「天然モノは健康」説です。
対して官側は、「言いたいことはわかるけどね…」と敵に塩をおくるようなことを言いながら、
「所詮、食塩からとる塩の摂取量は1日に1グラムなわけでね、統計によると。普通の人は」
「で、例えばマグネシウムだと、含有量から計算すると1日5mgにしかならないわけ」
「厚生労働省が勧めるマグネシウムの1日の摂取量が、歳にもよるけど350mg」
「ね、ぜんぜん少ないでしょう? 塩からとっても意味なくね?(語尾上がる)」
傷口に塩を塗るごとく、ほくそ笑むわけです。
そこで引き下がる天然派じゃありませんで、
「栄養よりも味です!」
「塩に含まれるにがりこそが、旨み成分。味の決め手です!」
ですよねっ!
我が家のボロネーゼの正体不明の美味さは、塩だったのです。
ということはアレですね、すでに塩の販売が自由化されたということですから、イラン天然削り塩を日本に持ち帰ったら一儲けできるかもしれないということで、イランに寄って帰らなきゃ。
塩鉱山の入り口。白いのは雪です。本来は観光客は入れませんが、特別に許可を得て……っていうか、誰も管理していないので勝手に侵入した次第です。でも、泥棒はしてませんよ。
まったくの余談ですが、一度でもイランに行くと、アメリカに入国する際にビザが必要になります。
悪の枢軸国に指定されてますから。
ところで前振りの新聞のYoshiとは、亀のことでした。
亀が拙者の名前を語っているようです。
ケープタウンの人気者は、亀のYoshi。
デザイナー。1965年、北海道旭川市生まれ。札幌で育ち、東京で大人になる。出版社勤務、デザイン事務所、編集プロダクションなど複数の会社経営の後、2005年4月より建築家の妻と夫婦で世界一周中。生活費を稼ぎながら旅を続ける、ワーキング・パッカー。世界中の生の健康トレンド情報をビジネスライフで発信中。
<参考資料>
・厚生労働省「国民健康・栄養調査」(平成28年度)
・厚生労働省「都道府県別生命表の概況」(平成27年度)
・朝日新聞社「自測自健のススメ」(「【都道府県別ランキング付き】高血圧になりやすい地域はある?」)