図1 1日の推奨身体活動量の達成率(全体、成人・高齢者別、性別)
図2 活動量計装着中の運動・スポーツ実施有無による推奨身体活動量の達成率
共同研究の概要
厚生労働省:健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023推奨事項一覧
2024年1月、厚生労働省が策定した「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023(以下、身体活動ガイド2023)」で「健康づくりのための新しい推奨身体活動量」が示されましたが、身体活動量に関する全国規模かつ客観的な指標データがなく、実際に国民がどの程度動いているかを明確に把握できていないという課題がありました。本調査は2023年10月~11月にかけ、首都圏・中京圏・近畿圏の13都府県在住の成人650人を対象に行われた国内初の大規模調査です。活動量計を用いて身体活動量を実測するとともに、質問票によるアンケートでスポーツ実施状況等を調べました。
身体活動量を客観的に計測したデータにくわえてアンケート調査のデータを複合的に分析することで、これまで十分に検証されてこなかった普段の生活習慣等との関連も明らかになりました。
今年度は対象を全国200地点、5,400人に拡大した調査を実施しています。今後は、全国規模で成人の身体活動量を把握、さらにスポーツ実施や健康指標との関係性を検証することで「スポーツによる健康寿命の延伸」を目指すための知見や政策形成に資する情報を発信します。
<調査結果のポイント>
1. 厚生労働省の推奨身体活動量の達成率は49.5%、高齢者で達成率が高い
成人(20~64歳)の達成率は45.6%、高齢者(65~79歳)の達成率は61.7%
2. 推奨身体活動量の達成率は運動・スポーツ実施者で69.1%と、非実施者の41.8%より高い
3. 推奨身体活動量の達成者と非達成者で、余暇時間(平日・休日)に差はみられなかった
■研究担当者コメント
2024年度より「健康日本21(第三次)」が開始され、その身体活動・運動分野の目標を達成するためのツールとして「身体活動ガイド2023」が新たに公表されました。このガイドでは身体活動の時間や強度を考慮した具体的な数値目標が提示されているものの、国民全体における推奨身体活動量の達成率や実態についての客観的な調査データが不足している状況です。このたび、長年にわたり大規模な全国調査を手掛ける笹川スポーツ財団と、活動量計による身体活動量の測定スキルを有する体力医学研究所のノウハウを融合させることで、三大都市圏における活動量計を用いた無作為抽出調査を実現させることができました。
今回の調査結果より、スポーツ実施者の方が推奨身体活動量の達成率が高い状況が垣間見えたことからも、スポーツ実施の重要性が見て取れました。また新たな知見が得られた一方で、有効回答率の低迷という課題も残りました。今後は、政策への貢献も視野に入れて、国を代表する身体活動の実態調査の位置づけを目指し、全国への調査範囲拡大とともに、回収率向上の工夫に努めて参ります。
【明治安田厚生事業団 体力医学研究所 研究員 川上 諒子】
本調査の客観的な身体活動量のデータから、生活活動全般における身体活動量は運動・スポーツの実施者が非実施者に比べて多い傾向にあることがわかりました。また、余暇時間の多寡と推奨身体活動量の達成との関連はみえなかったことから、仕事や移動などの時間における身体活動の多い人や、余暇時間の中で運動・スポーツを実施している人が推奨身体活動量を達成している可能性が示唆されます。身体的な健康づくりのためには推奨身体活動量の達成が不可欠ですが、さらなるQOLの向上を目指すには、余暇時間に運動・スポーツを実施することが重要とされており、そのための施策を講じる必要があります。
余暇時間のほかにも、質問票では多岐にわたる内容を確認し、運動歴や家族構成などとの関連もみえてきました。今年度からは対象とする人数や地域を拡大し、性別や年代、居住区域、さらには運動・スポーツの実施種目や実施場所など詳細な状況と客観的データに基づく身体活動量との関連について分析する予定です。引き続き、身体活動量ならびに運動・スポーツの実施率の向上にむけた機運を高める一助となれるよう努めて参ります。
【笹川スポーツ財団 シニア政策オフィサー 松下 由季】
<主な調査結果>
1. 厚生労働省の推奨身体活動量の達成率は49.5%、高齢者で達成率が高い
厚労省は成人で1日60分以上、高齢者で1日40分以上の中高強度身体活動(庭仕事、子どもと遊ぶ、水泳など)を推奨している。全体では49.5%が達成していたが、男女ともに高齢者の達成率が高かった。性別でみると、男性より女性の達成率が低かった(図1)。
画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/416592/LL_img_416592_1.jpg
図1 1日の推奨身体活動量の達成率(全体、成人・高齢者別、性別)
2. 推奨身体活動量の達成率は運動・スポーツ実施者で69.1%と、非実施者の41.8%より高い
活動量計装着中に運動・スポーツを実施したかをたずね、実施の有無による推奨身体活動量の達成率を分析した。運動・スポーツの実施者69.1%、非実施者41.8%がそれぞれ推奨身体活動量を達成しており、運動・スポーツの実施者のほうが達成率は高かった。
画像2: https://www.atpress.ne.jp/releases/416592/LL_img_416592_2.jpg
図2 活動量計装着中の運動・スポーツ実施有無による推奨身体活動量の達成率
3. 推奨身体活動量の達成者と非達成者で、余暇時間(平日・休日)に差はみられなかった
余暇時間について、「家事や睡眠・食事など生活上必要な時間を除いて、あなたが自由に使える時間は何時間くらいありますか。」とたずね、平日と休日それぞれ回答を得た。
推奨身体活動量を達成した人(達成者)の余暇時間の平均は平日4.3時間、休日7.6時間であった。一方、達成しなかった人(非達成者)では平日4.2時間、休日7.5時間であった。達成者と非達成者ともに平日よりも休日の余暇時間のほうが長かったが、達成状況による差はみられなかった。
■調査概要
【研究題目】 活動量計による身体活動・スポーツの実態把握調査
【研究目的】 活動量計により全国規模で成人の身体活動量および
座位時間を把握し、それらの活動と健康関連指標・
スポーツ実施との関連を検証する。
【調査対象】 満20歳以上80歳未満の男女 650人
(住民基本台帳から層化二段無作為抽出法により抽出)
【調査地点】 首都圏・中京圏・近畿圏の13都府県における計50地点
【調査方法】 訪問留置調査(調査員が回答者宅を訪問して活動量計と
調査票を配布し、一定期間内での回答を依頼した後、
調査員が再度訪問して活動量計等を回収する方法)
対象者は休日を含めた1週間、活動量計を装着。
期間中に実施した運動・スポーツに関しては質問票に回答。
※調査委託先:株式会社日本リサーチセンター
【有効回答数】196(有効回答率30.2%)
【調査内容】 1) 活動量計による測定:身体活動量(低強度・中高強度)、
歩数、座位時間
2) 質問票による調査:運動・スポーツ実施状況、
運動・スポーツ歴、健康の認識、生活習慣 など
【調査時期】 2023年10月~11月
【研究担当者】公益財団法人 明治安田厚生事業団 体力医学研究所
研究員 川上 諒子
公益財団法人 笹川スポーツ財団 シニア政策オフィサー
松下 由季
<活動量計>
本調査では、三軸加速度センサーが入った活動量計を使用し、身体活動を客観的に測定する。腰に装着するだけで、身体活動データを1分ごとに記録し、個人の身体活動量や歩数が測定可能となる。日常生活で「どのくらい動いているのか」「どのくらい座っているのか」を本格的に測定・分析できる。対象者は休日を含めた1週間、就寝時や入浴時などを除き装着する。
画像3: https://www.atpress.ne.jp/releases/416592/LL_img_416592_3.jpg
共同研究の概要
<測定項目>
■身体活動:
身体活動とは「安静にしている状態より多くのエネルギーを消費するすべての動作」を指し、運動やスポーツだけではなく、日常生活における労働・家事・移動なども含む。身体活動ガイド2023では、3メッツ※以上の身体活動(歩行、庭仕事、子どもと遊ぶ、水泳など)の基準が示されている。
■座位行動:
座位行動とは「座位、半臥位および臥位におけるエネルギー消費量が1.5メッツ以下のすべての覚醒行動」と定義され、座ったり横になって休んだりするすべての状態(睡眠は除く)を指す。長すぎると健康に悪影響があるため、身体活動ガイド2023においてはじめて指針が示された。
画像4: https://www.atpress.ne.jp/releases/416592/LL_img_416592_4.jpg
厚生労働省:健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023推奨事項一覧
※メッツ:「安静時を1としたときに、何倍のエネルギーを消費するか」を示す“活動強度”の単位。歩行は3メッツ、速歩は4.5メッツ、ランニングは10メッツ。週に3時間のランニングを行った場合、10メッツ×3時間=週30メッツ・時となる。
■公益財団法人 明治安田厚生事業団 体力医学研究所
1962年設立。体力医学研究所では「健やかで豊かな長寿社会」の実現に貢献する新たな健康づくり方法を開発する研究活動を行うとともに、その知見の普及啓発を推進している。現在は職域における身体活動・座位行動の健康影響についての運動疫学的研究、そのメカニズム解明を目指す基礎的研究を実施。さらに健康科学の知見を社会に根付かせるため、地域における社会実装的研究を展開している。
■公益財団法人 笹川スポーツ財団
1991年設立。国民一人ひとりがスポーツを楽しむ社会「スポーツ・フォー・エブリワンの実現」を掲げ、「スポーツによる社会課題解決」を目的に研究調査活動を行う。主な研究テーマは、健康とスポーツ、障害者スポーツ、子どものスポーツなど。研究結果をもとに自治体やスポーツ推進団体と共同事業を実施し、政策提言を行っている。