トキウモウダニ(オス)。走査型電子顕微鏡像(島野 智之撮影)
画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/210382/LL_img_210382_1.jpg
トキウモウダニ(オス)。走査型電子顕微鏡像(島野 智之撮影)
これをうけて、2020年3月27日公開された環境省レッドリスト2020でのトキウモウダニのランクは「野生絶滅(EW)」から「絶滅(EX)」に変更されました。宿主である中国の個体を始祖として繁殖したトキは日本の空によみがえり2019年に「野生絶滅(EW)」から「絶滅危惧IA類(CR)」にランクダウンしていました。
トキは、古来はロシア、韓国、日本、中国の数カ所に広く生息していました。しかし、トキウモウダニは、ロシア沿海地方と中国国境に位置するハンカ湖から新種として記載され、ロシア、韓国、日本のトキについていたと予想されています。現在、日本では中国 陝西省のトキを借り、これらを始祖として繁殖に成功し野生復帰が果たされ、日本の空にトキが戻ってきました。
ウモウダニは様々な種の鳥の羽に共生するダニで、鳥を傷つけることはなく、羽の古い油やカビなどを食べて生活していると考えられています。トキ Nipponia nipponは学名(ニッポニア・ニッポン)に“日本”を冠する日本を代表する鳥の1つです。日本在来のトキには、トキウモウダニCompressalges nipponiaeとトキエンバンウモウダニFreyanopterolichus nipponiaeの2種のウモウダニがついていました。これら2種は、いずれもトキ以外の鳥種からは見出されていません。
法政大学 島野 智之教授と東邦大学の脇 司講師は環境省のレッドリスト見直しに係る現地調査の一環で、国産トキで1995年に死亡した「ミドリ」ならびに、最後の日本産個体で2003年に死亡した「キン」の羽合計17枚を調べました。その結果、トキウモウダニ(Compressalges nipponiae) 68個体とトキエンバンウモウダニ(Freyanopterolichus nipponiae) 35個体を確認しました。また、あわせて1999年以降に中国からトキを用いた人工繁殖が行われている佐渡トキ保護センターにおいて、調査できる可能な限りの2018年のトキの羽686枚を調べたところ、17,800個体ものウモウダニが見つかりましたが、それは全部トキエンバンウモウダニでした。
この結果から、今の日本にいる中国産のトキには、トキウモウダニは付いておらず、トキウモウダニは日本産トキとともに絶滅していたと考えられました。
このように、ある生物が絶滅すると、その種とかかわりあってきた他の生物も、同時に失われてしまうという例となってしまいました。
■発表雑誌:Journal of the Acarological Society of Japan(日本ダニ学会誌)
論文タイトル:A report of infection in the crested ibis Nipponia nippon with feather mites in current Japan.(英文)
著者:Waki, T. & Shimano, S.*(*: 責任著者)