
「一瞬でええねん。一瞬でも本物と思ってくれて、楽しんでもらえたらうれしい」。食べ物をモチーフに和紙で本物そっくりの「フェイクフード」を作る、SNSで人気の「メガネのおじいちゃん」こと、大阪市在住の西瀧一彦さん(80)。70歳を過ぎてから始めた和紙工作は「一瞬リアル、見ると紙」をテーマに、ライフワークとなっている。【前本麻有】
「神様ならぬ『紙様』のおかげやね。和紙があってこその作品づくり」と語る。
まず、キッチンペーパーなどで土台を作ってから和紙を用いる。自信作「ワタリガニ」の甲羅は、何枚もの和紙を重ね合わせて本物のような色味に近づけ、水のりを使ってつや、質感を出している。
「一瞬のリアル」を求めつつ、「あえて和紙っぽさも残している。『よく見たら紙やん!』って気づいてもらうのがいいねん」と紙の繊維が見える部分もある。
着色を一切しないのが自身のルール。「樹脂を使って着色をして本物そっくりなものを作る人はたくさんいるけど、和紙をそのまま生かすのが自分らしさやね」。
妻の弁当袋にしのばせてみると…
建築関係の仕事を退職後、「暇つぶしに」と段ボールで飛行機を作るなど紙工作を始めた。ある日、妻が勤務先に持っていく弁当袋に、段ボールで作ったクッキーをこっそりしのばせた。
「妻は鼻が良くてね。『接着剤の匂いがする!』と気づいたんですが、手に取るところまではだませたんですよ」と、少年のような笑顔を見せる。
本格的にフェイクフードを作り始めたのは2019年ごろ。ちぎり絵をしていた姉から「もう使わないから」と和紙を譲り受け、茶色の和紙がハンバーグのように見えたのがきっかけだ。
極薄から厚手のものまで、さまざまな和紙をどう見立てるかが腕の見せどころ。ネタ探しはスーパーだ。鮮魚や肉、野菜、キノコ、パンや総菜など「実際に手に取って、自分の目で観察できるから」と、身近な食べ物がモチーフだ。
食品サンプル会社が絶賛
作品の数々を息子の直人さんがSNSに投稿すると大反響。食品サンプル会社から「すごすぎる」と絶賛されたり、故郷の香川県小豆島でワークショップを開いたりするようになった。
最近は和紙を取り扱う店が減り、以前はあった色の販売がなくなるなど「パンなどの焦げ目の表現がうまくいかへんなーって時もあるよ」と打ち明ける。それでも「あるものでうまく作っていきたい。SNSの『いいね』やコメントがうれしい。モチベーションになっています」とほほ笑んだ。
メガネのおじいちゃん
1945年、香川県出身。68年武蔵野美術大学卒。建築関係の仕事を退職後、紙工作や和紙を使ったフェイクフード作りを始める。趣味は川柳。作品画像や制作過程の動画などを掲載しているX(ツイッター)は(@meganenooo)
