
山口県北部の萩市は、幕末に吉田松陰ら多くの志士を輩出し「明治維新胎動の地」と呼ばれる。市内の金属溶解炉「萩反射炉」や伝統的な建物が残る「萩城下町」など五つの場所は世界遺産「明治日本の産業革命遺産」の構成資産。今年は2015年7月の登録から10年の節目にあたり、市は観光客の誘致に取り組んでいる。
「まち歩きの前にぜひ立ち寄ってほしい」。市の担当者のお勧めは萩藩校・明倫館跡地に立つ観光拠点施設「萩・明倫学舎」だ。14年3月まで小学校だった国内最大級の木造校舎の一部を改修し、17年3月にオープンした。
約5万平方メートルの跡地に、国登録有形文化財の本館を含め四つの建物がある。2号館では映像やパネルで世界遺産の場所が近代化を成し遂げる上でどんな役割を果たしたか紹介。市外の収集家が寄贈した大砲や銃など約620点も展示している。
萩明倫館時代の剣術・槍(そう)術場「有備館」(国指定史跡)や泳ぐ技術を磨いた水練池(同)などの遺構もあり、無料の観光ガイド(要予約)を受けられる。ガイドの一人、横山都夫(いつお)さん(74)は「世界遺産を見る前にここで説明を受ければ臨場感が増す。歴史に興味がない人でも何かを感じてもらいたい」と笑顔で話す。
市内を訪れる観光客は、松陰の妹が主人公のNHK大河ドラマ「花燃ゆ」が放映された15年に約570万人に上ったが、新型コロナウイルス禍の影響などを経て23年は約380万人にとどまった。
遺産登録10年の今年、市観光協会は、宿や飲食店の無料Wi−Fi(無線LAN)の整備などを支援し、インバウンド(訪日客)を取り込みたい考えだ。担当者は「伝統工芸品の萩焼や新鮮な魚介類の他、特産の夏みかんもある。ぜひ足を運んでほしい」と心待ちにしている。【脇山隆俊】
萩・明倫学舎
山口県萩市江向602。本館は観覧無料。2号館は大人300円、高校生200円、小中学生100円。本館と2号館の開館時間は午前9時~午後5時。駐車場は1回310円。電話(0838・21・0304)。