石破茂首相は29日午後、与党が過半数割れした衆院選後初めての所信表明演説を衆参両院の本会議で行った。国民民主党が見直しを主張する所得税がかかり始める「年収103万円の壁」について、「2025年度税制改正の中で議論し引き上げる」と表明。暫定税率の廃止を含むガソリン減税についても「自動車関係諸税全体の見直しに向けて検討し、結論を得る」との考えを示した。総額13・9兆円の24年度補正予算案の早期成立を目指し、野党に協力を呼びかけた。
政治改革を巡っては、これまで使途公開義務がなかった政策活動費の廃止、政治資金をチェックする第三者機関の設置、各議員に月100万円支給される調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の使途公開などを列挙し、年内決着への決意を示した。立憲民主党などが求める企業・団体献金の廃止には触れなかった。
外交・安全保障分野では、日米同盟が基軸との姿勢を改めて明確にした上で、トランプ次期米大統領との今後の首脳外交に意欲を示した。中国に関しては、主張すべきことは主張した上で、両国共通の利益を追求する「戦略的互恵関係」を推進し、「国益に基づく現実的外交」を模索する考えを示した。
首相はまた、自衛官の充足率が9割にとどまっていることは「極めて深刻」との認識を示し、隊員の生活・勤務環境の改善策の方向性を年内に打ち出すと表明。日米地位協定の見直しを見据え、在日米軍基地の自衛隊による共同使用の推進にも触れた。
災害対応に関しては、避難所となる全国の学校体育館の空調整備のペースを2倍に加速する方針を打ち出した。キッチンカーなどの迅速な派遣を可能にする官民連携や支援団体の事前登録制度、資機材の分散備蓄などを列挙した。
強盗・詐欺被害が相次ぐ匿名・流動型犯罪にも言及し、「闇バイト」の募集情報のインターネット上からの削除に一層注力し、犯罪グループの検挙を推進すると訴えた。
首相は「日本全体の活力を取り戻す」との決意を示し、看板政策として「地方創生2・0」と銘打った。地方への交付金の当初予算ベースでの倍増やデジタル化による高付加価値化、男女間の賃金格差解消などに取り組み、来年4月に開幕する大阪・関西万博を最大限活用する考えも示した。【村尾哲】