自由診療で「がん細胞が死ぬ」と勧められた点滴を投与された後に死亡したとして、がんを患っていた男性(当時46歳)の遺族が23日、大阪市のクリニック院長に935万円の損害賠償を求める訴えを大阪地裁に起こす。遺族側は点滴の中身が何か明らかになっておらず、危険性などの十分な説明がなかったと訴える。
訴状によると、男性は2021年4月、前立腺あるいは精囊(せいのう)のがんと診断された。一般病院での抗がん剤治療のほか、クリニックで診察を受けていた。
自由診療を提供するクリニックは「がん細胞を死滅させる」などと宣伝。医学的な効果が確認されている標準治療と異なり、自由診療は公的な医療保険の対象ではなく、患者が全額を自己負担することになる。
男性は21年10月、「米国製の治療薬」とされる点滴を受けた。ところが、11月には動脈に血栓ができているのが分かり、腫瘍マーカーの値も悪化。翌年4月にがん性腹膜炎で死亡した。
明確な返答なく
男性と院長のメッセージのやりとりによると、男性は「タンパクの遺伝子で、がん細胞死を起こさせる」との説明を受け、「ガスダーミンE」と呼ばれる物質を勧められていた。
実際に投与された点滴を後で確認すると、院長は「ガスダーミンRNAとなっていました」「もう一度アメリカに確認してみます」と返信。それ以降、明確な返答はなかったという。
遺族側は投与の同意書も見当たらず、点滴が死亡につながったと主張。院長が十分な知識を持たずに説明責任も果たしていないとし、「がん細胞の増殖が抑えられることを期待していたが、物質は治療として人体に投与できるものではなかった」と訴えている。
クリニックの院長は毎日新聞の電話取材に対し、「投与したのは他の患者にもごく普通に使っているものだ。おかしな治療をしたつもりはなく、なぜ訴えられる状況になっているのか分からない。患者さんとの同意もあり、勝手に治療したわけではない」と話している。【木島諒子】