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「海がきこえる」氷室冴子作品展 構想15年、主任学芸員の思い


 1980年代に大ヒットした小説「なんて素敵(すてき)にジャパネスク」、スタジオジブリによってアニメ化された「海がきこえる」で知られる北海道岩見沢市出身の小説家、氷室冴子(57~2008年)。その作品と生涯を振り返る展覧会が札幌市中央区の道立文学館で開かれている。

 構想を15年以上温め続けてきたのが主任学芸員の吉成香織さん(44)。50代前後の女性に熱心なファンが多い氷室作品だが、吉成さんは「若い世代にこそ読んでほしい」と呼びかける。

 氷室は岩見沢東高校卒業後、藤女子大(札幌市)在学中の77年に「さようならアルルカン」でデビュー。集英社の少女向けの文庫レーベル「コバルト文庫」を中心に活躍し、「少女小説」ブームをけん引した。

 平安時代のおてんばな姫が活躍する「なんて素敵にジャパネスク」(全10巻)はシリーズ累計800万部のベストセラーとなり、漫画化もされた。

 吉成さんは小学5年の時、年上のいとこから「なんて素敵にジャパネスク」の小説と漫画をもらったことをきっかけにファンになった。「文庫本は『大人の読むものだから読み通せない』と思っていたのに、あっという間に夢中になった」と振り返る。

 主人公の瑠璃姫は貴族の姫ながら、自分の信念を持ち、時には身分による制約や常識を超えて大胆な行動を取る。「人と比べがちな思春期に、自分なりの思いを持って行動する瑠璃姫がかっこよかった。同じようにはできないけれど、自分は自分でいいと思えたんだと思う。多感な時期にこそ読んでほしい作品」と語る。

 吉成さんが展覧会開催を考えるようになったのは、2008年6月。氷室の訃報がきっかけだった。

 氷室作品をきっかけに読書がより好きになり、大学では近代文学を研究した吉成さんは、前年に学芸員として道立文学館に着任したばかり。高校以降は氷室作品から離れていたが、訃報で氷室が北海道出身だったことを知り、いつか展覧会をしたいと考えたという。

 氷室作品は熱心なファンが多いものの、氷室らの「少女小説」の分野は児童文学と一般文芸のはざまにあり、学問的な研究などはあまりされてこなかった。ブーム以降は人気が影を潜めていたこともあり、展覧会も実現できなかったという。

 しかし、没後10年の18年には「氷室冴子青春文学賞」が創設され、20年代にエッセーの復刊が相次ぎ、研究本も出版された。NHKではドキュメンタリー番組が放送され、氷室作品の再評価が進んでいた。

芯の強さ、タイトルに

 展覧会のタイトル「氷室冴子の世界 ふくれっつらのヒロインたち」には、氷室作品に登場するヒロインたちの芯の強さが表現されている。会場には氷室が岩見沢で過ごした子供時代から年代ごとに生涯と作品を紹介。なんて素敵にジャパネスクの手書き原稿、同じシーンが漫画化された際の漫画原稿、多くのスタジオジブリ作品の原画を手がけてきた近藤勝也さんによる「海がきこえる」の挿絵原画などが展示されている。

 氷室作品は小説家の辻村深月さん、町田そのこさんら人気作家にも影響を与えた。吉成さんは「氷室作品は30年、40年たっているとは思えないほど、今読んでも面白い。ブームの時だけで終わりではなく、読み継がれていくべき作品」と話している。

 展覧会は11月10日まで。観覧料は一般700円ほか。【今井美津子】

よしなり・かおり

 札幌市出身。北海道大大学院で近代文学を研究後、高校教諭を経て2007年に道立文学館に学芸員として着任した。

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