
<阪神2-1巨人>◇1日◇甲子園
この日1番の歓声に包まれながら、阪神石井大智投手(27)が帰ってきた。
6月6日オリックス戦でピッチャーライナーが頭部に直撃。目を覆いたくなるようなアクシデントから25日ぶりの1軍登板だ。
「甲子園で投げるのは最高だなと。ピンチを作りましたけど、しっかりゼロで抑えられた。死ぬ気で抑えてやろうと」
8回に登板。2死一、三塁を招くも最後は門脇を左飛に打ち取り、無失点で踏ん張り抜いた。藤川監督も「どんな場面でも変わらずやってくれる。非常に強いピース」と絶賛した。
頭部に打球が当たった瞬間、目を開けても前が見えなかった。「脳が停止したんだと思う」。幸い意識はあったが、病院へ即搬送。1週間は動く度にめまいと吐き気が襲った。当然、家族から寄せられた少なくない心配。一方、自分自身はいたって冷静だった。
「多分、周りが思っている以上に僕は別に何も思っていない。起こるべくして起こっていることだと思っているから」
アクシデント当日にも、石井はひとつの信条を明かしていた。試合の数時間前、練習後の会話だった。
「プロ人生でどれだけ投げるかも、もっと言えばいつ死ぬかも決まっていると思う。ただ、そこのレールに乗っていくだけ」
日々、明暗が分かれる中継ぎ投手。結末は全て初めから決まっていると考えるのが石井流だ。当然、投球の反省は怠らない。とはいえ「めっちゃネガティブ」と自負する性格上、悪い結果を引きずるのも良くない。試行錯誤の末、たどり着いた心の整え方だった。
「打たれても『生まれる前から今日は打たれる日だったんだろうな』と。自分の心が楽になるから」
今回の出来事も考え方は同じ。決まっていたことだと割り切るからこそ、恐怖や不安は一切残っていない。リハビリ中も笑顔であっさりと今回の件を振り返っていた。「そういうことです。人生は」。心身ともに頼もしい右腕がブルペンに帰ってきた。【波部俊之介】