「プーチン様のおかげで、今日も民主主義の国で朝を迎えることができました(なにせロシアを脱出しましたので……)」
これはロシアが2年半前にウクライナ侵攻を開始して以降、祖国を離れて国外で暮らすロシア人の間で広まっているジョークの一例だ。
ジョークが交わされているのは、ロシア人がよく使う通信アプリ「テレグラム」のグループチャット。匿名性の高いテレグラムには、戦争に反対したり、動員を逃れようとしたりして世界各国に移住した人たちがさまざまなグループを作った。
そこでの会話は現地の生活情報が中心だ。しかしアネクドート(風刺小話)好きなロシア人たちが集まるからだろうか。時々こうしたプーチン政権への皮肉を込めた投稿がみられるという。
タイのビーチリゾート、プーケットで暮らすロシア人向けのチャットグループで、冒頭のジョークを目にしたロシア人男性のソゾントさん(32)は、すぐさま「いいね」を付けた。「こんなジョークが言えるのも、戦争に反対できるのも、言いたいことを言える場所にいるからこそなので」
タイ南部の離島に移り住んだイワンさん(40)=仮名=は、プーチン政権を批判し、戦争に反対する投稿をソーシャルメディアで続ける。祖国には戻らないと決めたからこそ、気兼ねなく発信できるという。「国内でいくら発言しても、かき消されてしまう声がある。だからこそ、国外から発信する意味があるはず。私は黙らない」と話す。
ロシア人移住者について調査してきた欧州大学院の研究員、イベッタ・セルギエバさんは、次のように解説する。「ロシア人が移住先を決めるときに重視するのは、その国が民主主義を掲げているかどうか。(飛び交うジョークは)ロシアの体制への批判であり、締め付けの厳しさをよく表しているのではないでしょうか」【プーケットで石山絵歩】