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災害時に活用のはずが…石川のFCV公用車が被災地へ行かなかった訳


 水素で発電してモーターを回して走り、走行時に二酸化炭素(CO2)を排出しない「究極のエコカー」燃料電池車(FCV)。外部給電機能などで災害時に非常用電源として活用でき、徳島県が南海トラフ巨大地震に備えて5台導入するなど、公用車としても使われている。2018年の台風災害では京都市のFCV公用車が大活躍した一方、24年1月の能登半島地震では、石川県のFCV公用車は被災地へ向かわなかったという。FCVが出動しなかった理由とは?【植松晃一】

災害時の「非常用電源」として期待されるFCV

 FCVは、車体に搭載した燃料電池内で水素と酸素の化学反応によって発電し、得られた電力でモーターを回して走行する。ガソリン車がガソリンスタンドで燃料を補給するように、FCVは水素ステーションで燃料となる水素を充塡(じゅうてん)する。

 FCVは電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHV)と並び、走行時に温室効果ガスを排出しない「ゼロ・エミッション車(ZEV)」。ZEVの中でも航続距離の長さが特徴だ。

 徳島県や京都市、石川県などが公用車として導入しているトヨタ自動車のFCV「MIRAI(ミライ)」は、現在の上位グレードだと一回の水素の充塡で最長850キロ走行できる。一方、電気を蓄電池にため、その電力でモーターを回して走るEVは、航続距離が短い車種で200~300キロ程度、長い車種で500キロ前後が一般的。ガソリンエンジンと電気を併用して走るPHVでは、トヨタ「プリウス」がモーターのみのフル充電で走行できるのが最長87キロだ。

 蓄電池に電気をためるEVやPHVと異なり、FCVは自ら搭載した燃料電池内で発電ができる。18年の台風21号の際には、京都市のFCV公用車3台が出動。停電が続いていた被災地区を回って、一般家庭の洗濯機を動かしたり給湯器を点火させたりした。市出張所への給電や市民のスマートフォンの充電にも活躍し、最長4日間、水素の充塡なしに活動したという。

能登半島地震では被災地へ向かわなかったFCV公用車

 一方、24年1月の能登半島地震では、石川県のFCV公用車は被災地へ向かわなかった。県庁のある金沢市から最大震度7を観測した輪島市までは片道約110キロ。ミライをフル充塡すれば4往復はできそうだが、なぜ出動しなかったのか。

 県管財課によると、地震発生後、金沢市から能登半島の被災地までの道のりは、土砂崩れなどで道路網が寸断されたため各地で渋滞が発生し、車で移動するのに数時間かかる状況になった。実は、ミライがフル充塡で走行できる最長「850キロ」というのはあくまで参考値で、厳寒期にエアコンをつけながら渋滞でノロノロ運転すれば、走行可能距離は短くなる。渋滞時には、ガソリン車やディーゼル車も燃料消費が進み、航続距離が短くなるのと同じだ。仮にFCVが被災地にたどりついて非常用電源の供給を始めても、想定より早く水素の充塡が必要になった可能性が高い。

 水素は高圧ガスのため、ガソリンや灯油のように携行缶で運搬できず、燃料が切れたら水素ステーションへ向かうしかない。石川県内のステーションは、金沢市内と「のと里山空港」(輪島市)敷地内の計2カ所だが、空港敷地内のステーションは地震後、設備の安全点検が必要なため使用できなかった。

 県幹部によると、そもそもFCV公用車を「電源車」として被災地に派遣する検討はしなかったという。幹部は「厳冬下の災害で停電が起き、被災者が凍死しかねない状況だったので、金沢市など県南部への広域避難を優先させた。夏場だったり、停電地域が金沢市だったりしたら派遣の可能性もあったが、それも道路事情次第だっただろう」と語った。

南海トラフ巨大地震では活用できるのか?

 徳島県が24年3月にまとめた南海トラフ地震の最新の被害想定では、地震発生直後、津波からの避難者が県人口の半分に当たる約36万人発生。地震直後は県全体で広域停電が起き、発災4日後でも停電からの復旧は半分にとどまると予想する。非常用発電機を持つ医療機関では診療・治療が可能だが、燃料不足で機能が停止する医療機関も発生すると想定している。

 こうした予測が現実となった際、徳島県が持つ5台のFCV公用車は活用できるのか。

 水素ステーションの整備を進める一般社団法人「次世代自動車振興センター」(東京)によると、23年末現在、ステーションは国内に161カ所あるが、うち計100カ所は首都圏1都3県と大阪、愛知、福岡の各府県に偏在している。徳島県内には3カ所しかなく、うち2カ所は水素供給装置を載せたトレーラーが巡回する「移動式」ステーション。南海トラフで甚大な被害が想定される県南部にはステーションがない。道路の寸断なども予想される中、発災時に水素供給のためトレーラーを被災地へ向かわせるのも現実的ではない。

 県サステナブル社会推進課の担当者は、災害時におけるFCVの非常用電源としての活用について「(ステーションのある)徳島市周辺での停電には活用できるかもしれないが、(県南部などの)郡部には補給施設がなく、どう運用するかは詰まっていない」と説明。具体的な活用策は固まっていないのが現状だ。

 FCVや燃料電池の運用に詳しい東大生産技術研究所の吉川暢宏(のぶひろ)教授(材料強度学)は「FCVが被災地へ向かえるようにするには、水素の供給施設を各地で充実させる必要があるが、ステーションの整備には時間がかかる。水素ボンベや充塡装置をトラックの荷台に簡易的に積み、FCVと並走できる移動式のステーション装置が開発できれば、災害時にも機動的に運用できる」と指摘している。

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