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イスラエルがイランを敵視する理由 「ホロコースト」の恐怖強く


 イスラエルはなぜイランを極度に敵視し、恐れるのか。イラン研究の専門家として知られるイスラエルのシンクタンク「国家安全保障研究所」のラッズ・ツィムツ研究員は2021年4月の毎日新聞のインタビューで「イランが核を保有すれば、新たなホロコーストが起きる恐れがある」と、ユダヤ人が抱く心理を説明していた。【聞き手・三木幸治】

――イラン核施設への攻撃のほか、イスラエルは2020年もイランの核科学者を暗殺したとされます。なぜ極度に敵視するのでしょうか。

 ◆その答えは、イランがイスラエルを「滅ぼそうとしているから」です。イランは1979年のイラン・イスラム革命で、イスラム教シーア派の法学者が支配する体制となり、シーア派の教えを近隣国にも広めようとしています。彼らはユダヤ人が多数を占めるイスラエルが「国家として存在する権利」を認めていません。イランにもユダヤ教徒は少数ながら存在し、ユダヤ教を宗教としては認めています。しかし民族としての権利を認めていません。

 ――イスラエルは、主にアラブ人が住んでいたパレスチナの地に48年に建国されました。しかしその際にパレスチナの人々が土地を追われた経緯もあり、サウジアラビアなど多くのアラブ諸国が依然としてイスラエルを国家として認めていません。こうした中、イスラエルはなぜイランだけを特に警戒するのですか。

 ◆確かにイスラム教スンニ派の大国であるサウジは、パレスチナ問題などを理由にイスラエルを認めていません。ところがサウジは90年代から徐々に現実的なアプローチを取り始めました。イスラエルを国家として承認する可能性も含め、政治的解決に向けた準備を始めています。背景にはパレスチナ問題の重要性が以前より薄れてきていることもあります。一方でサウジにとっては(ペルシャ湾を挟んだ)隣国で、宗派が異なるイランの方が徐々に軍事的脅威になってきました。そこでサウジはイスラエルと組み、イランに対抗しようと考えているのです。20年にはサウジに近いアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーンなどがイスラエルを国家として認め、国交正常化を実現させましたが、この動きも同じ流れにあります。

 ところがイランは今もイスラエルを「滅ぼす」と言い続けています。反米・反イスラエルの強硬派である最高指導者ハメネイ師が交代しない限り、イランの方針は変わらないでしょう。

全ての対話拒絶

 ――イスラエルは、イランの核保有を極度に恐れているように感じます。

 ◆ユダヤ人はナチス・ドイツに600万人以上を殺害されたホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)を経験しました。イスラエルを「滅ぼす」という意図がある国が核兵器を持った場合、新たなホロコーストが起きるかもしれません。そのため1%でもイランが核兵器を持つ可能性があることを恐れています。(※イランでは公式には宗教令で核兵器製造が禁止されている)

 ――イスラエルも核兵器を保有しているとされます。イランが核を持っても、互いにけん制し合う「核の抑止力」が働くのではないですか。

 ◆米国と旧ソ連がにらみ合った冷戦時代とは違います。当時の両国は敵対状況にあったとはいえ、きちんと対話のチャンネルを持ち、緊張緩和ができました。ところが今のイスラエルとイランにはそれがありません。また、国の規模も違います(イランの国土はイスラエルの約70倍、人口は約9倍)。数年前の世論調査では、イランが核を持った場合、多くの国民が「国を離れる」と回答しました。我々は今もホロコーストの記憶にとらわれ続けているのです。

 ――イランの核保有を防ぐため、イスラエルは何を考えているのでしょうか。

 ◆イスラエルにできることは、イランの核開発の進度を「いかに遅くさせるか」ということです。そのための選択肢は3点あると思います。

 まず、イランの核施設に対する軍事攻撃です。しかしこれは非現実的です。攻撃した場合、イランだけでなく、レバノンに拠点を置く親イランのシーア派組織ヒズボラもイスラエルに報復するでしょう。また、イランは核施設を国内各地に分散させているほか、施設が破壊されても再建する技術を持っています。

 2点目は、4月11日の核施設への攻撃のように、モサドなどが関与する「隠密作戦」です。ナタンツの核施設は2009~10年にもサイバー攻撃を受け、(核兵器の材料となる)ウラン濃縮に使う遠心分離機が破壊されました。この施設は20年7月にも爆発があり、イスラエルが関与したとされています。10年以降、イランの核科学者が複数人暗殺されていますが、これも核開発を遅らせるための動きです。

 3点目は、外交的解決です。15年にイランと主要6カ国(米英仏独露中)が結んだ核合意が代表的な例です。核合意は、イランが核開発を一定期間制限し、国際原子力機関(IAEA)の監視を受ける代わりに、米欧が経済制裁を解除する内容です。ただ将来的にはイランの段階的な核開発も認める内容になっており、その点がイスラエルにとって問題です。米欧は合意期間中にイランと信頼関係を構築するとしていますが、イスラエルから見ればあまりに楽観的だと思います。

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