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夫の夢、私が受け継ぐ 神戸人形作家・吉田太郎さんの妻の決意


 明治時代半ばに生まれ、からくり仕掛けの動きやとぼけた表情で親しまれた神戸人形。戦災や震災を経て継承が途切れかけていた中、復活を願い制作に励んでいた神戸市東灘区の人形劇美術家、吉田太郎さんが2月21日、血球貪食症候群による多臓器不全のため54歳で亡くなった。伝統を守りつつ新作を生み出し、前途に夢が広がり始めたところだった。工房で共に歩んできた妻の綾さん(56)は、夫からのバトンを受け継ぐと心を決め、近く神戸人形作りを再開する。

 目玉や舌が飛び出るちょっと不気味だけれどおかしみのあるお化け。お酒を飲んだり団子を食べたり踊ったり。古い神戸人形の姿には暮らしや世情がしのばれる。最盛期は大正時代から昭和初期。神戸を訪れる外国人らが日本土産に買い求め、神戸港から海を渡ったものも多い。

 神戸・元町で育った吉田さんは、子どもの頃に商店街のおもちゃ店「キヨシマ屋」で神戸人形を憧れのまなざしで見つめていたと、生前の取材で語った。模型が好きで、店主が手作りしている様子に魅せられた。母にねだったが買ってもらえなかったという。

 大学卒業後は京都の人形劇団に就職し、演じながらセットの製作も担当。その後独立して綾さんと人形劇美術の仕事を始め、1997年に神戸で現在の工房を開いた。

 「阪神大震災でまちが変わり、神戸人形も忘れ去られようとしている」。寂しさを口にする吉田さんに「作ってみたら」と勧めたのは、綾さんだった。すぐに試作。神戸人形の収集や復元に努めていた日本玩具博物館(姫路市)の協力を得て2015年、「ウズモリ屋」の屋号で本格的に神戸人形作りを始めた。

 17年の神戸開港150年のイベントではパノラマ型の神戸人形を出展。21年には同館のコレクションを基に「神戸人形賛歌 よみがえるお化けたち」を出版した。老舗菓子店「本高砂屋」神戸元町本店(神戸市中央区)で展示販売も始まり(現在は展示のみ)、神戸人形を再び世に送り出す吉田さんの夢は一つずつかない始めていた。

 突然の死去から1カ月がたった3月下旬、2人で仕事をしてきた工房で綾さんは静かに言い切った。「どれくらいできるかわからないけど、やっていこうと思っています」。今はまだ夫のような技術はない。しかし、「世の中が平和なら、神戸人形はしぶとく生き抜いていくに違いない」と信じていた夫の遺志を受け止め、バトンをつなぐつもりだ。【木田智佳子】

日本玩具博物館学芸員、尾崎織女さんの話

 吉田太郎さんは、天才的な着想と郷土愛で神戸人形を廃絶の危機から救い、令和の時代へとつないだ唯一無二の作家。機知に富んだ作品群は、若い世代の神戸人形ファンを育てました。彼の志を継ぐ方々の試みを、郷土玩具界を挙げて応援したい。

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