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日米関係に影落とすUSスチール買収 構図とバイデン氏の立ち位置


 岸田文雄首相は10日、ワシントンで日米首脳会談に臨み、日米同盟の強化を図る。ただ、バイデン政権は日本製鉄による米鉄鋼大手USスチール買収計画に対し難色を表明。11月に大統領選をひかえ、買収に異議を唱える労働者票がトランプ前大統領に流れることを警戒するためだ。経済安全保障の観点からも重要度が増す日米関係に、保護主義に傾く米政治が影を落とす。

 米中西部ミシガン州イコースは、斜陽産業が集中する「ラストベルト(さびついた工業地帯)」の一角だ。デトロイト川沿いに車を走らせると、USスチールの製鉄所があった。

 「何が起こっているのか本当に分からない。USW(全米鉄鋼労働組合)がこの取引をしたがっていないのは明らかだが、その理由が何なのか私たちにも情報がない」。製鉄所から出てきた男性従業員(52)は困惑した様子で話した。

 USスチールは日鉄の買収計画に揺れている。

 昨年12月に発表された計画は、粗鋼生産量で世界4位の日鉄がUSスチールの全株式を141億ドル(約2兆1000億円)で取得し完全子会社化する内容。日鉄は1株当たりの買い取り額を市場価格に40%上乗せする好条件を示しており、世界27位で経営不振が続くUSスチール経営陣や株主にとって「渡りに船」の提案だった。USスチールの株価は買収計画発表後初めての取引で約26%上昇。「経営基盤強化で国際競争力も高まるため、現場で働くUSスチールの従業員にとってもメリットがある」(米アナリスト)として、多くの関係者の理解を得られる合理的な計画とみられていた。

 だが、北米で約120万人(退職者含む)が加入するUSWがそこに立ちはだかった。

 USスチールは「鉄鋼王」と称される米実業家アンドリュー・カーネギー氏を源流に持つ名門企業。米製造業の繁栄を象徴する企業の売却先が外資となったことに、USWは発表直後から猛反発した。日鉄はUSスチールの社名を残し、本社を東部ペンシルベニア州ピッツバーグから移さないと約束したが反発は収まらなかった。

大統領選見据え、メッセージ

 日鉄への逆風をさらに強めたのが、バイデン米大統領によるUSWへの支持だ。

 「USスチールは100年以上にわたって続く米国の象徴的な鉄鋼会社。国内で所有・運営される米企業であることが不可欠だ」。バイデン氏は3月14日、声明でそう訴えた。直接的な表現は避けたが、「USスチールは米企業が所有すべきだ」と記しており、買収反対のメッセージを盛り込んでいるのは明らかだった。

 11月の大統領選を見据えれば、民主党のバイデン氏にとって労働組合は貴重な票田だ。USWの意向を無視するわけにはいかない。

 しかし、バイデン氏の「政治的圧力」で買収が阻止されれば、市場からは「米国でのビジネスには政治リスクがつきまとう」との悪評を招きかねない。重要資源や半導体のサプライチェーン(供給網)強化など経済安全保障分野での協力を進める日米関係にもしこりを残す。

 イコースのUSスチール製鉄所前の幹線道路沿いには多くの空き店舗が並ぶ。荒れ果てた廃屋のような建物も目立った。ここで40年以上営業するギリシャ料理レストランで働くナンシー・ジョッシュさん(63)は「製鉄所がなくなれば地域経済には死活問題。日本企業であっても、この製鉄所の経営を続けてくれるなら私は喜んで支持する」と語った。

 それでも、USWは「世界で最も価値のある企業であったUSスチールの所有権を米国外に移すこと」をかたくなに拒み続けている。日鉄は3月下旬に「買収後も雇用は維持する」などと明記した書簡を送り理解を求めたが、USWは「紛争を解決するための有意義な根拠を提供するものではない」と一蹴した。【イコースで大久保渉】

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