楽しみにしていたコンサートを控え、突如に武装集団に襲われた人たち。乾いた銃声が響き、鉄筋の建物が燃え上がる――。モスクワ近郊で22日夜に起きた銃撃テロは、犠牲者が100人を超す惨劇になった。一夜明けると、地元住民は驚きと恐怖を口にしていた。
襲撃されたコンサート会場は、モスクワ近郊でも有数の規模を誇る商業施設の一角を占める。公演を予定していたのは、旧ソ連時代から活動するロックグループの「ピクニック」。金曜日の晩を迎え、6200席近くのホールはほぼ埋まっていたという。
だが午後8時の公演開始予定の15分ぐらい前から、悪夢のような出来事が始まった。
ネット交流サービス(SNS)上に投稿された現場の映像によると、茶色っぽい服装にリュックを背負った4人組の男が、ホールの入り口のロビーとみられる場所に乱入。自動小銃のようなものを、その場にうずくまる人やガラスの扉に向けて何度も乱射した。別の映像では、銃声が響く中、ホール内の人々が左右を見回しながら逃げ惑っている。
ロシア紙RBKは「銃撃音が聞こえると、多くの人が一斉に出口に向かおうとして、もみ合いになった」という現場の女性の声を伝えた。警備員らは警棒しか持っていなかったという。露メディアの報道では、非常口の一部が施錠されていたために避難が遅れたとの指摘も出ている。
武装集団が立ち去った後、鉄筋7階建ての建物は炎上。消防車やヘリコプターも投入されて、消火作業が続けられた。
◇
記者は23日午前に最寄りの地下鉄駅で降り、現場への接近を試みた。普段の土曜日ならば、買い物客でにぎわう時間帯のはずだが、人影はまばらだ。周囲では数台のパトカーがグルグルと走っている。
前方に見えたコンサート会場は最上部のガラスの箇所がほとんど炎上し、全体も黒ずんで見えた。建物が高温で炎上し続けた模様がうかがわれる。
「ダメだ」。記者はホールに近づこうとしたが、非常線を張っている警察官から言い放たれた。近くを歩く50代くらいの女性に尋ねてみても「なんでここでこんなことが起こったのか分からない」と当惑気味だ。
かつてモスクワではテロが頻発したが、現在は比較的治安が安定している。また隣国ウクライナでは「特別軍事作戦」が続いているが、モスクワや周辺は無人機の攻撃にさらされる以外に、身近な脅威に直面していない。
そのため、多くの市民にとって前日の襲撃は驚きだったとみられる。「テレビで見ただけで詳しいことは知らないけど、大変なことが起こった」。60代とみられる男性はこう話して続けた。「恐ろしいよ」
襲撃した公演会場から逃げた4人だが、23日午前になると、ロシアの治安機関に拘束されたと報じられた。通信アプリ「テレグラム」に投稿された映像では、逃走用に使ったとされる乗用車が破損しており、激しいカーチェイスがあったとも推察される。
治安機関は早くも4人の身元を明かし、中央アジアのタジキスタン出身だと説明している。多くの犠牲者を出したテロの全容解明はこれからだ。【モスクワ山衛守剛】