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「赤ちゃんはどこから?」 性交を教えない日本 学習阻む指導要領


 その日、授業を行う小学校からの要望は「性交については扱わないでほしい」だった。

 岐阜県各務原市の市民団体「性教育団体『いのちの授業』ここいく」が訪問先からこうした要望を受けることは珍しくはない。いつも通り、模型などを使って体の仕組み、生理や射精、妊娠、出産について触れたが、性交は教えなかった。でも授業後、子どもたちからは疑問の声が上がった。「赤ちゃんはどこから来るの?」

 ここいくは、2010年に中村暁子さん(54)ら子育て中の母親が中心になって設立した。性に関する真偽不明の情報がインターネット上であふれる中、子どもに正確な知識を伝えたいとの思いからだった。助産師でもある中村さんは、望まない妊娠をする女性と接する中で、女性に性の知識が不足していることも実感してきた。年間30~40回、岐阜、愛知、滋賀の幼稚園や小学校、中学、高校などから講演依頼を受ける。

「そんなことまで教えなくても」タブー視

 1月18日、ここいくは岐阜県関市立下有知小を訪れていた。メンバーは、真剣な表情の4年生たちを前に授業を始めた。

 体の仕組みなどを話した後、男女の出会いや、性交の場面などをイラストで描いた紙芝居を読み聞かせ、「卵子と精子が一つになって生まれてきたのが君たちだよ」と呼びかけた。対等な人間関係や、性の多様性などにも触れ、「生まれてきてくれてありがとう」とメッセージを送った。

 こうした授業は「包括的性教育」と呼ばれる。ユネスコ(国連教育科学文化機関)などの国際機関が進め方などを整理したガイダンスを作成し、性教育の国際水準ともされている。ジェンダーへの理解や、体の発達、性や生殖など八つのコンセプトを5~18歳で段階的に繰り返し学習する。

 妊娠が性交の結果で起こりうることを学習するのは、9~12歳の目標に位置づけられている。正しい情報に基づいて、性交をいつ、誰とするかを自分で決め、早すぎる妊娠や性感染症を防ぐ最も安全な方法が性交をしないことだと理解するため、とされている。

 世界の潮流を尻目に、日本の公教育では性交を教えることがタブー視されがちだ。理由の一つに、小、中学校の学習指導要領に、学習内容を制限する「歯止め規定」と呼ばれる記述がある。小学5年の理科では「人の受精にいたる過程は取り扱わないものとする」とし、中学の保健体育にも「妊娠の経過は取り扱わないものとする」とあった。

 ここいくでも「歯止め規定」を理由に、授業が打ち切りになったケースは多いという。中村さんは「『そんなこと(性交)まで教えなくても』という保護者からのクレームのほか、人事異動で担当者と共に方針も変わり、取りやめになることもよくある」と肩を落とす。

 ただ、文部科学省は「必要に応じて規定に関わらず、学習指導要領に示されていない内容を教えることも可能」との見解を示している。とはいえ「必要に応じて」が何をさすのかあいまいで、東海地方の教育委員会の中には「どう進めるか運用は難しい」「指導要領にのっとって、とだけ伝えている」との声もあった。

友人、先輩、ネットから知る

 子供たちはどこで情報を得ているのか。「日本児童教育振興財団内 日本性教育協会」(事務局・東京都)が2017年に中学、高校、大学生約1万人を対象に行った調査によると、性交についての情報源を「友人や先輩」とした割合が最も多く4~6割を占めた。特に男子高校生や大学生は、学校の授業や教科書よりも、インターネットやSNS、アダルト動画で情報を得ている傾向にあった。

 ここいくの運営に携わる古川明美さん(57)は、インターネットの情報やアダルト動画が「教科書」のようになった子どももいるのではないかと危惧する。現実とはかけ離れた男性優位の考え方で作られているものが多いためだ。

 性はいまだに恥ずかしいもの、いやらしいものと捉えられがちな中で、「性にまつわることは命をつなぐすてきなこと。だから無理やり(相手に強いること)はだめなんだよ、と丁寧に伝えていくことが必要」と語る。

 ここいくには訪問先の学校から感想文が届く。そこに子どもたちはこう書いていた。「どうやって生まれてくるか分かって良かった」「お母さんにありがとうと言いたい」

 ここいくが、性交を含む一連の流れを教えてきたのは、誰にも不幸になってほしくないという思いがある。望まない妊娠や性暴力による事件は絶えない。それでも伝え続けることで、「自分は、両親が愛し合った結果、生まれてきた大切な存在なんだと知ってもらいたい。そうすれば、隣の子も、その隣の子も同じ大切な存在なのだと思えるはず」。そう中村さんは話す。【田中理知】

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