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「コロとナナと一緒にいたい」避難所行かず 納屋焼け、逝った飼い主


 能登半島地震による被害が甚大な石川県珠洲(すず)市宝立町(ほうりゅうまち)。その山中で1月中旬、木造納屋の焼け跡から遺体の一部が見つかった。亡くなったのは納屋の所有者の男性とみられ、元日の地震後、倒壊した母屋に近い納屋で避難生活をしていた。一帯の住民が避難する中、なぜ男性はライフラインが途絶した場所に住み続けたのか。

 男性は上野次郎さん(65)。地元のガス会社に長年勤務し「次郎さん」と呼ばれ、慕われていた。同居する両親が亡くなってからは、木造2階建て母屋で1人暮らし。雄の柴犬(しばいぬ)「コロ」と雌の三毛猫「ナナ」を飼っていた。

 「燃えている……」。1月18日夕、上野さん方を訪ねた職場の同僚2人は、ぼうぜんと立ち尽くした。納屋は完全に焼け落ち、真っ黒な骨組みがあらわになっている。職場から上野さんが借りていたガス発電機やストーブが見えた。上野さんとは12日に「また来週ね」と別れて以来、連絡が取れておらず、様子を見に来たところだった。胸騒ぎがし、同僚たちはその足で警察署に駆け込んだ。

 上野さんの弟(62)によると、今回の激震で母屋は1階がほとんどつぶれた。上野さんは帰省中だった弟やコロ、ナナと共に納屋に移った。数日後にコロが行方不明になった。弟は9日に金沢市近郊の自宅に戻り、上野さんとナナは納屋にとどまった。

 上野さん方の周辺は携帯電話が通じにくく、断水や停電も発生。余震で建物がさらに壊れる危険もあり、近隣住民は避難していた。近所の男性(60)は「避難所には食べ物も水もある。来たらどうですか」と上野さんに勧めたが、笑顔で「大丈夫、大丈夫」と断られた。「動物嫌いの人に遠慮しているのかな」と感じたという。

 上野さんはコロを十数年前に飼い始め、半年ほど前からは子猫のナナを知人から譲り受けて大切に育てていた。職場ではコロとナナをよく話題にし、写真も見せた。被災後、同僚には「幼い猫の面倒を見ないといけない」と話し、弟も「兄貴は危険を顧みずに母屋のがれきをかきわけ、奥にあるエサを一生懸命探していた」と振り返る。

 「猫もいるし、避難所には行きづらい。1部屋空いとらんか」。地震後、上野さんは親族の女性(65)に電話で尋ねていた。女性は快諾したが、数日後に上野さんに電話をしてもつながらなかった。「ずっと犬と猫が一緒だったから、みんなで避難したかったんだろう」と女性は声を詰まらせる。職場の最年長で人望が厚かった上野さん。同僚男性(61)は「無口だけど仲間思い。人生の先輩として、たくさん聞きたいことがあったのに」と肩を落とす。

 行方知れずになっていたコロについて1月24日午前、記者に「コロに似た犬がいる」との情報が入った。石川県南部小動物管理指導センター(同県小松市)を訪ねると、顔の白い柴犬が駆け寄ってきた。1月6日に宝立町で保護されたといい、頭をなでるとしっぽを振って喜んだ。後日、記者から連絡を受けた上野さんの弟が施設に出向き、この犬をコロと確認した。

 ナナも行方不明になっていたが、ナナとみられる猫が県内の動物病院にいることが分かり、弟は「ずっと心残りだったのでほっとした」と話す。あるじを失ったコロとナナは、新しい飼い主が見つかれば引き取られるという。【郡悠介、古川幸奈】

ペットと避難 厳しい現実

 災害救助犬の育成や派遣を行う認定NPO法人「日本レスキュー協会」(兵庫県伊丹市)が、石川県珠洲(すず)市でペットを飼っている被災者に避難状況の聞き取りをしたところ、1月20日時点で少なくとも37世帯がペットを自宅に残し、22世帯が車中泊を選択。20世帯は在宅避難をしていることが確認された。被災者は「人を見るとほえるので他の避難者が寝られなくなる」「ケージに入れると鳴いて迷惑をかけるかも」といった不安を抱えていたという。

 だが、車中泊や在宅避難は災害関連死や2次被害を誘発する危険もあり、同協会などは市の担当者らと調整を進め、同28日に飯田公民館にペット同伴専用の避難所を開設した。市によると、市内でペット同伴専用はここだけ。他の避難所では周囲の被災者の同意を得たうえで室内で一緒に過ごせるケースなどがあるが、統一ルールはないという。

 地震発生当初から奥能登地域などで被災者のペットの捜索や物資の支援を続ける兵庫県の動物愛護団体「つかねこ動物愛護環境福祉事業部」の安部壮剛代表は「上野さんは本当は納屋で暮らしたくなかったのでは。もっと早く専用の避難所が開設されていたら」と悔やんだ。【古川幸奈、郡悠介】

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