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自閉症の息子、避難所連れて行けず「限界」 追い詰められた家族


 能登半島地震の被災地には、障害者や介護が必要な高齢者ら、一般の避難所で生活するのが難しい人たちが少なくない。国は自治体に対し、そうした被災者を受け入れる「福祉避難所」を開設するよう求めている。しかし、計画通りには進んでいない現状がある。【斉藤朋恵、菅沼舞】

 「もう限界です。このままでは家族が壊れてしまう」

 5日、石川県輪島市の中心部にある障害者福祉施設「一互一笑(いちごいちえ)」に一人の男性(50)が訪れ、声を絞り出すようにして伝えた。

 対応した職員に対して男性が語ったのは、障害のある子がいる一家が、地震発生からの5日間を必死な思いで過ごしてきた経験だった。

 男性は妻(46)、重度の自閉症の小学6年の長男、小3の長女の4人家族。市中心部から約8キロ離れた集落で暮らしている。1日の激しい揺れの後、急いで外に避難しようとしたが、長男は混乱して靴を履こうとしなかった。男性が背負って車の中まで運んだ。

 倒壊の恐れがある自宅には戻れない。しかし、一家は避難所で過ごす選択もできなかった。

 長男は環境の変化に敏感で、食器や家具が違うだけでご飯が食べられなくなる。室内で跳びはねたり、建物を飛び出そうとしたりすることもある。旅行では周囲に迷惑をかけないようにと、必ず角部屋を選んで宿泊する。普段から、息を潜めるように暮らしてきた。

 そのため、長男を連れて多くの人が集まる避難所に行くことはとても想像できなかった。「避難所に行けば、息子がうろうろするのは分かっている。人に迷惑をかけられないと思った」

 自宅の隣にある離れの一室には、男性の高齢の母親が暮らしていた。地震によって壁が落ちて、窓ガラスが割れていたものの、自宅に比べれば損傷が少なかった。離れの一室で、母親を含めた5人で過ごすことにした。

 しかし、生活は徐々に行き詰まっていく。長男はタブレット端末でお気に入りの動画を見るのが日課だが、充電が切れると落ち着かなくなった。布団の周りをぐるぐる歩き回り、ストレスで指や歯茎を血が出るほどかきむしった。そんな兄の状態を見て、長女も精神的に不安定になってしまった。余震で、いつ部屋が倒壊して下敷きになるかも分からない。

 もう限界だった。地震から5日目、男性は長男が放課後等デイサービスで利用したことのある「一互一笑」に出向いた。事情を話し、支援を求めた。

 同施設は、輪島市と協定を結んで災害時に障害者らを受け入れる「福祉避難所」に選ばれている。家族は、福祉避難所の存在を知らなかったという。窮状を聞いた管理者の藤沢美春さん(55)は、すぐさま市内にある障害者らの支援施設に、一家が一緒に暮らせる個室を確保した。

 藤沢さんにもまた、重度の自閉症がある次女(28)がいる。男性の苦しみは手に取るように伝わってきた。「自閉症の人はこだわりが強く、いつもやっていることができないとパニックを起こして、自分を傷つけ、じっとしていられなくなる。迷惑をかけることを恐れて、避難所に行かずに車中泊や自主避難をしている障害者とその家族は、たくさんいると思う」

 施設に入ったことで、長男は少しずつ落ち着きを取り戻したという。男性は、「施設に入ることができると聞いたときは、ほっとして涙が出た」と胸をなでおろす。一方で、「周りへの迷惑を考えると、仮設住宅やアパートで暮らすこともできない。今後のことを考えると不安ばかり」とも語った。

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