カジノを含む統合型リゾート(IR)について、長崎県佐世保市への誘致計画を認定しないと国が27日発表した。同市のテーマパーク「ハウステンボス」(HTB)の隣接地への誘致を目指していたが、国の審査の過程で資金調達や事業運営の在り方がことごとく否定されるなど「門前払い」とも言える格好となった。
「極めて遺憾だ。我々が納得できる十分な説明を国に強く求めたい」
27日夕、県庁で記者団の取材に応じた大石賢吾知事は憤りをあらわにした。地元・佐世保市の宮島大典(だいすけ)市長も同日、市役所で記者団に「極めて遺憾だ」と語った。国は4月、大阪府と大阪市の申請のみ認定し、長崎分は継続審査としていた。
長崎県が2022年4月に申請した計画によると、整備区域はHTBに隣接する約32ヘクタール。当初は23年度中に着工し、27年度の開業を目指していた。
区域内での雇用は9693人、来訪者は31年度にはインバウンド(訪日外国人)などを含め673万人と試算。施設の建設で5428億円、運営で3328億円の経済波及効果があると見込んだ。
そのため、地域経済の起爆剤として地元経済界からの期待は高かった。
長崎でのIR誘致は、地元経済界などを中心に07年に発足した「西九州統合型リゾート研究会」に端を発する。14年には中村法道知事(当時)がIR誘致推進を表明し、16年にIR整備推進法が成立すると、誘致活動は一気に本格化した。
21年には九州経済連合会など官民22団体が「九州IR推進協議会」を設立。現在は九経連の倉富純男会長が協議会の会長に就いており、シンポジウム開催などでIR誘致の機運醸成を図ってきた。
それだけに倉富氏はコメントで「九州経済に大いに寄与するプロジェクトとして期待していただけに、今回の決定は大変残念な結果だ」などと無念さをにじませた。
ただ、計画には不安材料もつきまとった。特にネックとなったのが、資金調達面だった。
計画では、初期投資に必要な額を約4383億円と見積もっていた。県によると、資金提供の意向を示した大口の一つはスイスの金融大手「クレディ・スイス」。ところが、同社は経営危機に陥り、23年3月に買収が発表された。
計画を検討した国の審査委員会の見解も、資金調達の見通しについて「確実性を裏付ける資料が提出されていない」と批判。「今後も出資・融資予定者の変更が生じる懸念を払拭(ふっしょく)できない」として認定基準に適合しないと結論付けた。
加えて、計画の中核となるカジノ事業についても「適切かつ継続的に実施されると見込まれるだけの根拠に乏しい」と評価されなかった。
これに対し、大石知事は資金調達について「我々としては不備があったとは思っていない」と反論。県IR推進課も「私どもができる最大、最高の手続きを整えて、国に申請した」と首をかしげる。
一方、計画に反対する人からは安堵(あんど)の声が上がった。
計画を巡り、県の公金支出差し止めを求める住民訴訟を長崎地裁に起こした今井一成弁護士は「あらかじめ危惧していた通りで、予想通りの結果だ」。佐世保市の「カジノ誘致問題を考える市民の会」の宮本美智子代表は「不透明な計画では認定されないだろうと思っていた。不認定と聞き、ほっとしている」と語った。【綿貫洋、高橋広之、松尾雅也、植田憲尚】