今年100周年を迎えた国産ウイスキー。国内外で「ジャパニーズウイスキー」の人気が高まるなか、大手ディスカウントストアや酒販店、百貨店では国産ウイスキーの品薄状態が続く異変が起きている。なぜ国産ウイスキーが足りないのか、原因を探った。
入荷しても「焼け石に水」の角瓶人気
「サントリーウイスキー（角瓶）は売り切れです。在庫なし」。8月下旬、東京都渋谷区のMEGAドン・キホーテ渋谷本店を訪れると、ウイスキー売り場に4カ国語で書かれたポップが張られていた。
ウイスキーのガラス瓶が並ぶ陳列棚には品切れが目立つ。サントリー「角瓶」は700ミリリットルの瓶も、2・7リットルのペットボトル商品も売り切れ。ニッカウヰスキーの「フロム・ザ・バレル」や松井酒造の「山陰 バーボンバレル」もない。
同店では、角瓶は今年2月ごろから品切れ状態が続いている。その理由の一つは、韓国人観光客の“爆買い”だという。
韓国では、角瓶を炭酸水で割る「ハイボール」や、炭酸飲料「チルソンサイダー」で割る楽しみ方が大ブームとなり、角瓶の価格が高騰。新型コロナウイルスの水際対策が緩和された昨秋から韓国人客の購入が目立つようになったという。
さらに、中国人訪日客の水際対策が緩和された今年5月以降は、中国で人気のあるサントリー「山崎」「白州」などの高額ブランドの売れ行きも回復。MEGAドン・キホーテ渋谷本店ブランド担当の大澤久揮さんは「角瓶は入荷しても一瞬で売り切れて焼け石に水の状態。ここまでの爆買いは今までになかった」とうれしい悲鳴を上げる。
「出荷が需要に追いつかない」
実際に、メーカー各社の売り上げは伸びている。サントリーによると、1～9月の角瓶ブランドの販売実績は前年比7％増。トリスブランドは12％増、ジムビームブランド13％増（いずれも数量ベース）といずれも好調だ。
アサヒビールは傘下のニッカウヰスキーの代表ブランド「ブラックニッカ」の売り上げが8月まで18カ月連続で前年を上回り、キリンも「富士」ブランドの2022年の販売実績は発売時の20年から約10倍になった。
メーカー各社はウイスキー人気に応えようと出荷を増やそうとしているが、需要の増加に追いつかない状況だ。ウイスキーは原酒を5年や10年など長期間たるで熟成させた後、原酒をブレンドして製造するためだ。サントリーの担当者は「ウイスキーは熟成に時間がかかるためすぐには市場に供給できない」と理解を求める。
国産ウイスキー100周年の転機
サントリーが1923年、日本初のモルト（大麦麦芽）ウイスキー蒸留所「山崎蒸溜所」（大阪府）の建設を始めてから今年で100年。国産ウイスキーは、需要が右肩上がりとなる時代に入ったようだ。
ウイスキーの国内販売量は、83年をピークに消費者の嗜好（しこう）の変化などで市場が徐々に縮小。08年にはピーク時の約5分の1となる7万5000キロリットルまで減少した。
転機となったのは08年。サントリーが提案した、角瓶を炭酸水で割った「角ハイボール」がブームとなり、若い世代を中心にウイスキー人気が復活。09年からは国内需要の回復傾向が続いている。
生産体制増強、2倍超値上げも
根強いブームを背景に、足元では値上げの動きが広がっている。
サントリーは24年4月1日出荷分から、国産プレミアムウイスキーの「響」「山崎」など5ブランド19品目を20％から最大約2・2倍に値上げする。「響30年」「山崎25年」「白州25年」は税抜き16万円が36万円になる。品質向上や生産体制の増強につなげる狙いだ。
サントリーはすでに計100億円規模を投資して山崎、白州（山梨県）の両蒸留所を改修。今回の値上げを元手に、年100億円規模の設備投資を進める。
キリンも約80億円をかけて富士御殿場蒸溜所（静岡県）の生産体制を増強した。ニッカは21年までに約65億円を投じて余市（北海道）、宮城峡（仙台市）の両蒸留所の設備を増強。来年は創業90周年キャンペーンを展開する計画だ。
では、国産ウイスキーの品薄はいつ解消するのだろうか。各メーカーの担当者は、「手に取りやすい価格帯の商品は1～2年で熟成させるものもあり、一時的な欠品にとどまる」と話す。一方、プレミアムウイスキーの原酒は熟成期間が10年以上のものをブレンドすることが多く、メーカー担当者は「品薄を解消できるのはしばらく先になりそうだ」と話している。【松山文音】
