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「稼がないと…」真冬の歌舞伎町、薄着でうずくまる19歳が目指した場所


 冬、肌を刺すような風が吹いていた。

 歌舞伎町にある大久保公園(東京都新宿区)の南側には高さ80メートルのビルが建ち、脇の路地はひときわ風が強く感じられる。

 2023年2月、使い捨てカイロをたっぷりと入れたバッグを提げたNPO法人「レスキュー・ハブ」代表の坂本新さん(51)が夜回りに出ると、その路地で1人の女の子がうずくまっていた。

 19歳のモモ(仮名)だ。乱れた前髪がうつむいた顔を覆っている。近づく坂本さんと私(記者)に気付いたが、両手でひざを抱えたまま動かない。

 「大丈夫か?」

 話しかけても、「うーん」と力のない答えしか返ってこない。「足が痛くて」と言いながら足首をさすっている。

 坂本さんは相談室で少し休むように勧めたが、彼女は首を横に振った。

 「今はいい。もうちょっとやらなきゃ。稼がないと本当にお金ないんだ。今夜のネットカフェ代くらい稼がなきゃ」

 そう言って、ゆっくり立ち上がった。

寒風の中で

 モモを初めて見たのは、22年末の路上だった。

 その夜、2人の女性が大久保公園を囲むガードレールに並んで寄りかかっていた。たばこの煙を空に向けて吐いていたのが26歳のユズ(仮名)で、隣で幾重にも巻いたマフラーを鼻まで引き上げていたのがモモだった。2人は売春の客を待っていた。

 「どう?」と聞くと、ユズは「全然ダメ。ちょっと前に一斉の取り締まりがあったらしくて、客も来ない」と言った。モモはさっと目線をそらし、遠くに向けた。ユズに客が付いたから邪魔をするまいと思ったのだろう。

 少しすると私が客でないと分かり、こちらに顔を向けた。目をぱちくりさせている。ユズが紹介するように「今は一緒に住んでるの」と言うと、「そうなの。私は半年前に歌舞伎(町)に来たんだ」と隣で笑った。少し前からネットカフェの個室をシェアしているらしい。

 モモは薄手のコートを羽織ってはいたが、足元は夏用のサンダル履きだった。「商売だからね」と強がりながら、寒さに顔をゆがませていた。

 真冬でも、道に立つ女性たちはたいてい薄着だ。ネットカフェで暮らす彼女たちは、持てる荷物が限られる。季節を問わず少ない服を着回すのは「商売」だけが理由ではない。

 年が明けたころから、モモは坂本さんが週末の夜に開く相談室に来るようになった。路上でうずくまっていたのは、0度近くまで気温が下がる日の続いたころだった。

「家みたい」な場所

 モモが歌舞伎町に来た理由は、ユズと同じでホストだ。初めてホストを見たのは「Tiktok(ティックトック)」だった。その日を彼女は正確に覚えている。22年3月28日だ。

 「それが私にとって最初の日だったから。もうすぐ出会って1周年の記念日なんだ」

 ホストが店内で酒を飲んでしゃべるだけの短い動画が、モモにとってはこの上なく「楽しそう」に見えた。

 繰り返し見ていると相手からもフォローされ、メッセージが送られてきた。高校を卒業した直後のことだった。

 既に就職は決まっていた。地元の小さな食品工場。スーパーに並ぶようなパック詰めのサンドイッチを作っていた。4月になり、モモは働き始めた。

 ホストからは「一度うちの店に来てみなよ」と度々誘われていた。1カ月余りが過ぎた5月の休日、電車を乗り継ぎ、初めてホストクラブに行った。

 「あんまり大きい店じゃなかったけど、それがすごく良くて。ホストさんたちもみんな仲が良いみたいで、店長さんも優しくしてくれたんだ」

 帰った後も余韻は消えなかった。18歳の春。また行きたい思いが募った。【春増翔太】

   ◇

 2023年、新宿・歌舞伎町の路上に立つ売春女性が急増しています。1年半にわたる取材で接したその素顔と歩みから、彼女たちがこの街を「居場所」にする背景を探ります。

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