「あなたの画像が改変されています」
2022年12月、関西地方に住むクリエーターの女性はツイッター(Xに改称)の利用者から、そう教えられた。
女性が数日前に画像投稿サイトに掲載した少女のイラストが、ほぼ同じ構図のまま細部が変えられ、身に覚えのないブログに載せられていた。
イラストには、生成AI(人工知能)の利用に反対するマークを描いていたが、消されていた。一体誰が、何の目的でやったのか。
「元の数千倍可愛くて売れそうな絵」
ピンク色の帽子をかぶり、横を向いてぺろっと舌を出す少女。左手には鉛筆と絵筆、右手にはスマートフォンを握っている――。それが女性の描いたイラストだ。
ブログの少女も同じ構図でよく似た帽子をかぶっているが、左手は隠され、肌の露出が多い服装に変えられていた。
ブログには、女性の作品をAIに読み込ませて画像を作ったという趣旨の説明があり、挑発的な言葉が並んでいた。
「元の数千倍可愛くて売れそうな絵‼」「『売れる絵』を出せるAIを否定しているんですか」
女性は怒りがこみ上げてきた。
踏みにじられた技術と誇り
そもそも、女性がこの作品を描いたのは、AIがイラスト作成に利用されることに反対するためだ。
「芸術は気持ちや伝えたいことを表現するもの。AIは他人の作品を切り刻むだけで、芸術ではない」。女性はそう考え、作品を3日間かけて手描きで仕上げた。
少女が持つスマートフォンに「NO AI」を意味するマークを描き、ウェブで公開する際には「私はAIアートを歓迎しません」「既存のイラストを素材にして合成するAIが氾濫しています」という文章も添えた。
しかし、ブログの記述はそうした考えを「意味がない」「バカ」などと全否定していた。
女性はブログの運営会社に対応を求めたが、「表現の自由の範囲だ」と取り合ってもらえなかった。
物心ついた時から絵が好きで、学生時代にデッサンや油絵を学んだという女性。現在は他の仕事を兼業しながら、イラストやアニメーション動画を制作して販売している。
「長年培ってきた技術をAIに踏みにじられたように感じる」。女性は悔しさをにじませた。
「私たちはAIを使うアーティスト」
しばらくして、改変画像を掲載したブログは削除された。ところが23年4月下旬、別のウェブサイトに同じ改変画像が投稿された。
アカウント名はブログの時とは違ったが、投稿者は「絵を無断改変した人間というのは俺です」と自ら明かした。
ツイッターにも同じアカウント名で投稿し、AIを創作活動に取り入れないともはや生き残れないと主張し、こう宣言した。「私たちはAIを使用して新たな表現やアイデアを追求するアーティストだ」
標的にされたのは、この女性だけではない。AI利用に反対するクリエーターの作品をAIに取り込んで改変する「攻撃」を続け、ウェブサイトにつづった。
「お前らの物は全部俺が奪い尽くしてやるわ。嫌ならインターネットやめろ」
その後、ウェブサイトの記述は削除された。7月、毎日新聞がこの投稿者にツイッターを通じて取材を申し込むと、こんな反応が返ってきた。
「俺を題材にバイアス掛かった記事書いてやろってか? クソつまんねーな」。それ以降、返信はなかった。【原田啓之】