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香取慎吾さんの「光」と「闇」200点 福岡で個展「WHO AM I」


 人気アイドルグループ・SMAPの元メンバーで俳優の香取慎吾さん(46)の九州初となる個展「WHO AM I」が、福岡市美術館(中央区大濠公園)で開かれている。17歳のころに描いた鉛筆画から最新のアクリル画まで約200点を展示。会場は「光」と「闇」のエリアに分かれている。開幕に先立って催された報道関係者向け内覧会(6月30日)には香取さんが出席し、「僕のいろいろな部分をより知ってもらえる展覧会になっています」と語った。

 香取さんは参加者たちの拍手に迎えられ、午後8時きっかりに登場した。この日は北九州ソレイユホール(北九州市小倉北区)でライブ「Black Rabbit」を終え、疲れ切っているはずだが、そんな様子はおくびにも出さず、終始余裕の表情。笑顔を絶やさない。

「最高な気分。ありがとう!」

 「すごい雨の中、高速道路を走ってきました。今回は個展(巡回展)が開かれる場所で一緒にライブをやっているんですが、ここ(福岡)が一番タイトです。本当に今さっきまで『もう1曲行くよ!』なんて言っていたんです。自分でもびっくり。でもそんな人生が好きで、最高な気分です。みなさんありがとうございます!」

 音楽、舞台、映画、テレビドラマ、ファッションなど、幅広い分野で才能を発揮している香取さん。美術家としての顔も持ち、2018年、パリで初個展を開いた。19年に東京都内で開いた日本初個展は18万人超を動員している。今回の巡回展は東京を手始めに、大阪、福岡、石川、福島を回るが、美術館での開催は福岡展が初めて。

 会場の福岡市美術館について感想を問われると、「すてきな美術館ですね」と即答した。趣味の一つが美術館巡り。「美術館が大好きで。でも、中に一歩入り、作品を見た瞬間に『わーっ、すてきだな。描きたいな』と思って、すぐ帰りたくなっちゃうんです」と笑う。福岡市美術館には、稲垣吾郎さん、草彅剛さんと結成しているユニット「新しい地図」のファンミーティングで3月に福岡を訪れた際、下見を兼ねて足をのばしている。香取さんが好きな画家として挙げるジャン・ミシェル・バスキアの大作「無題」や、サルバドール・ダリの代表作「ポルト・リガトの聖母」、アンディ・ウォーホルの代表作「エルヴィス」などのコレクションを擁し、西日本屈指の規模を誇る美術館として、美術ファンの人気を集める同館。「美術館で開けることがとても幸せ。緊張よりも喜びを感じています。福岡展の会場の設営をしてみて、ホールで開いた東京展、大阪展とは全然違うと思いました。自分自身、興奮しています」

「闇の部分の慎吾も知って」

 個展のタイトル「WHO AM I」は日本語で「私は誰」を意味する。

 「それこそさっきまでライブを開いていて、今、個展の会見をしている自分がいる。そんな忙しさで時間に追われる感じとかが、おれって何者なんだと(思わせる)。テレビのバラエティー番組に出たり、SNSをいじってたり、芝居をさせてもらったり……。ハッピーに自分って何者というときもあれば、どこか下を向いてしまって、暗い方の慎吾ちゃんもいたりするんです。アイドル香取慎吾としてはなかなかそういう闇の部分、光が当たらない部分の気持ちは表現することができない。したいわけでもなく、しないで生きてきたけど、アートではそんなところも見てもらえたら。今まで知らない香取慎吾がより知ってもらえるかなと思って、このタイトルにしました」

 会場に並ぶ作品を鑑賞すれば、香取さんの言葉の意味が理解できるはずだ。不気味な音楽が流れる「闇」のエリアに飾られた、涙を流すウサギの絵「NO TITLE」は悲しげ。黒っぽい空間に浮かぶピエロ風の男の絵はペーソスを感じさせ、ガイコツの絵には死のイメージがストレートに刻まれている。

 人物や心象風景、謎の生命体など、題材はさまざま。具象画、抽象画、その中間があり、筆致も奔放だったり、丹念だったり、香取さんの絵画は多様性に満ちている。一言で特徴を説明するのは容易ではないが、描く対象をリアルに再現するのではなく、独自の色彩感覚を生かし、ポップにまとめるスタイルは多くの作品に共通している。

 「光」のエリアでひときわ目を引くのが、天井まで届かんばかりの大作のアクリル画「SKnaht」(19年)だ。香取さんが考案したキャラクター「くろうさぎ」のオブジェ(ゆっくり回る仕組みになっている)とセットで展示されている。謎めいたタイトルと思いきや、「SK」は「慎吾香取」の略、「naht」はドイツ語で「縫合」の意味。人々をつなぎ合わせようという思いが込められているのだ。ハートや星を連想させる形象や、「令和」の文字がにぎやかに入り乱れ、多彩な色で埋め尽くされた原初的光景。混沌(こんとん)とした雰囲気の中に、力強いエネルギーが宿る。生命賛歌や世界平和のメッセージを読み取ることも許されよう。

「描いているとき頭と手は別」

 作品のタイトルは出来上がってから考える。6月22日に102歳で死去した福岡県出身の洋画家、野見山暁治さんと同じだ。「以前は『NO TITLE』で通していましたが、最近はむりやり付けています。タイトルを決めて描くのでなく、描き終わったときの気分。僕は絵を描くのが大好き。描いているときは頭と手が別になります。手が描きたいから描いているのに対して、頭の方は『描き始めたね。次は何を描くの? 目なの? 人の顔?』みたいな。そんな会話が楽しいんです」

 福岡展のために、地元福岡をテーマに据えた最新作のアクリル画「福岡っちゃん」(23年)を仕上げた。福岡銘菓「二○加煎餅(にわかせんぺい)」のお面をし、耳のあたりに明太子を付けた「くろうさぎ」がラーメンを食べる図。はしの代わりに左手に持っているのは博多ポートタワーで、画面左後方には福岡タワーが見える。ラーメンの入った器はSMAP時代に何度もライブを開いたPayPayドームだ。ユーモアが利いている。

 「福岡のみなさんの圧を振り払って、自由に描き始めたらこんな感じになりました。僕はタワーが好きみたいなんですよ。他の作品にも東京タワーやエッフェル塔があります。大阪展では通天閣の絵を出しました。今回描いた博多ポートタワー、知ってますよね? 博多ポートタワーの話をすると、みんなあんまり(反応が)……。でもこのタワー、東京タワー(や通天閣)と兄弟なんです。デザイン(設計)した人が同じ。ということで、福岡タワーだけじゃなく、博多ポートタワーも入れてみました」。細部に目をこらすと、福岡市早良区のももち浜をイメージした浜辺に「アイシテマース」の文字が確認できる。「(百道(ももち)浜近くの)ドームでのライブではよく(観客に向かって)『愛してまーす!』と言ったものです。宿泊先のドーム横のホテルから、ファンの方がももち浜に書いてくれた『アイシテマース』の文字が見えたことがあります」。そんな福岡の良き思い出を作品に盛り込むあたりが、サービス精神旺盛な香取さんらしい。絵画、オブジェを問わず、展示された作品からは表現者としての高い熱量とこだわりが伝わってくる。

 福岡展は8月27日まで。【渡辺亮一】

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