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津波は、アイヌは、天然記念物は…ソーラーパネルと共生、見えた課題


 北海道・釧路湿原国立公園周辺で大規模な太陽光発電施設の設置が相次いでいる問題で、釧路市は12日に自然との共生に向けたガイドライン(指針)を策定した。これについて釧路市環境審議会委員の一人、道教育大釧路校の伊原禎雄教授(動物生態学)は三つの課題を指摘した。【聞き手・本間浩昭】

一部パネルに有害物質

 釧路地域では巨大地震・巨大津波が想定されているが、「津波災害警戒区域」にも多くの太陽光パネルが設置されている。パネルには鉛などの重金属が含まれており、一部のパネルにはさらに毒性の強いカドミウムやセレン、ヒ素が使用されている。カドミウムは、四大公害病の一つ・イタイイタイ病を引き起こした原因物質である。襲来する津波はパネルを粉々に破壊し、汚染物質を拡散させる。浸水域となる釧路湿原は釧路市の上水道の水源でもある。ひとたび環境基準を超えた汚染が発生すれば、生活に深刻な影響が出ると考えられる。

 再生可能エネルギーの導入は必須だが、地域の事情や環境条件によっては深刻なリスクを引き起こしかねず、対策を事前に立てる必要がある。津波が来るような場所に対策もせずに設置すれば、いざという時に影響を被るのは地元である。この構図は、2011年に起きた東日本大震災に伴う放射能汚染とも共通する。放射能汚染された土壌の除去事業にどれだけ莫大な時間と予算が投入されたかを考えてほしい。津波後の地域復興も極めて大きなマイナスを背負っての道のりとなる。

 津波などの災害により発生する災害ゴミの処理については廃棄物処理法上、市町村が担うとされ、集積場所や汚染対策を国や道と協議し、事前の準備が求められているが、指針にはこうした対策が盛り込まれていない。別表の「設置するのに適当でないエリア」に津波災害警戒区域を挙げているが、すでに設置されている発電施設も多く、こうした既設の発電施設からの汚染リスクの低減対策なども指針の条文にきちんと盛り込むべきである。

欠けたアイヌ文化への配慮

 第2に、アイヌ文化への配慮が盛り込まれていない点である。現在、釧路市音別町のアイヌ民族「伝承の地」である馬主来沼(パシクルトウ)西側では大規模な太陽光発電設置計画が進んでいる。改正アイヌ文化振興法の趣旨に沿えば、地方自治体は文化財指定を受けなくても、文化のよりどころとなる伝統的な場所の開発にあたってはアイヌ民族に意見を聞いて是非を検討することが必要だと考える。文化の根拠の消失を繰り返さないためにもアイヌ文化尊重の趣旨を指針に反映すべきである。

希少種保護にも目を

 第3に、市街化調整区域での希少種の保護の実効性についても問題がある。環境省のレッドリストの絶滅危惧ⅠB類で、市の天然記念物でもあるキタサンショウウオの主要な生息地は、釧路市の市街化調整区域と重複する。同区域では建築物が規制されるが、法律上、建築物とみなされていない太陽光パネルの設置は可能で、生息地への設置が止まらない状況にある。釧路湿原では草地開発や道路建設に伴う本種の保護策として、成体や卵を代替池に移転してきた。だが、継続的なモニタリング調査の結果、移転による保護はうまく行かず、他に効果的な保護策は見いだせていない。指針では事業者が適切な保護対策を行えば設置を可能としているが、対策の効果や適切性には触れておらず、本種の保護については「事業者任せ」と言わざるを得ない。市街化調整区域に広がる生息地の保全が本種の保護の基盤であり、事業者任せではなく市としての責任を果たすべきである。

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