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4割値上げ“銭湯県”の悲鳴 広がる電気料金の地域差 その背景は?


 大手電力7社は6月1日、国の認可が必要な家庭向け電気料金を値上げした。経済産業省の試算では、標準的な家庭(30アンペア・月400キロワット時)で14~42%の値上げとなり、食料品などの物価高に見舞われる家庭には、更なる負担増となる。そして、今回の値上げは小規模事業者らが契約する電気料金も対象だ。価格転嫁が難しい事業者も多く、影響は大きい。値上げの有無によって、地域の電気料金の差も拡大する。政府による全国一律の負担軽減策が地域差を助長している面もある。

銭湯県に悲鳴 4割値上げ

 標準家庭で42%と最も値上げ幅が大きい北陸電力。国の認可が必要な大幅値上げは、第2次石油危機時の1980年以来43年ぶりだ。北陸電が本店を構える富山県は、銭湯(私営の一般公衆浴場)が2022年3月末で78軒で、人口10万人当たりの公衆浴場数が全国上位。この「銭湯県」も、電気料金の値上げのあおりを受ける。

 富山市内の住宅街の狭い路地に入り口を構える銭湯「高原鉱泉」。夕方から、仕事を終えた常連客が次々と、汗を流しにのれんをくぐって入ってくる。「うちはサウナと水風呂が売りなんです」と話すのは、店主の田村慎治さん(57)。105度という高温のサウナと、地下80メートルからくみ上げる天然水を使った水風呂が人気で、県外からもサウナ好きが訪れる。

 多くの銭湯が直面しているのは、風呂を沸かすためのガス代の高騰だ。だが、高原鉱泉の風呂は薪だきが中心。薪の調達は不安定さも伴うが、田村さんは「ガス代も高いので、できる限り薪で頑張る」とコストを抑える努力を続けてきた。

 その田村さんが頭を悩ませるのは、人気のサウナ設備に使う電力だ。北陸電と複数の契約を結んでおり、今回値上げの対象となる契約もある。燃料費の高騰分を自動的に料金に転嫁する制度もあって、銭湯全体で使う今年1月の電気料金は約43万8000円と、22年1月の約34万2000円から既に3割近く増えた。

 政府による電気代の負担軽減策があるものの、6月1日から更に負担が大きくなるのは確実。9月までの負担軽減策が終われば料金は跳ね上がる。田村さんは「値上げ幅が4割と知って、とんでもないと思った。影響は大きい」と明かす。電力消費量が多いサウナを休止している銭湯もあると聞くが、「うちとしては人気のサウナはやめられない」とため息交じりだ。

価格転嫁にハードル/県の補助も「焼け石に水」

 ただ、価格転嫁は簡単ではない。銭湯など一般公衆浴場の入浴料金は、物価統制令で都道府県ごとに上限額が決まっているためだ。富山県の場合、440円だった大人(12歳以上)の入浴料金の上限額が、ロシアのウクライナ侵攻などによる燃料費高騰で23年4月から30円引き上げられ470円になったばかり。電気料金の値上げによる負担増はそのまま銭湯経営を直撃する。県は5月補正予算で、一般公衆浴場1施設あたり3万円の補助を決めたが、銭湯関係者からは「焼け石に水」との声も漏れる。【萱原健一】

     ◇      

月6000円 広がる電気料金の地域差

 値上げした電力会社がある一方で、値上げをしない電力会社もあり、電気料金の地域差は広がる。

 経産省は今回の値上げ認可にあたり、値上げしない中部、関西、九州の3電力も含めた大手電力全10社の標準的な家庭の月額の電気料金を試算した。試算によると7月請求分は、今回値上げしない九電(8569円)と、値上げする北海道電力(1万4301円)で月約6000円もの地域差があることになる。

原発の稼働の有無

 地域差の背景のひとつが、原発の稼働状況だ。西村康稔経産相は5月16日、値上げの査定方針を了承した後の記者会見で「原発の再稼働が進んでいる関電、九電は今回、料金改定を行っていない。他の電力会社の電気料金よりも大幅に低い水準」と言及。電気事業連合会の池辺和弘会長(九電社長)も5月の定例会見で「原子力のある九電や関電が値上げせず、ほかが値上げせざるを得なかったのは事実」と述べた。

 川内原発(鹿児島県)や玄海原発(佐賀県)が稼働する九電、大飯原発(福井県)や高浜原発(同)などが稼働する関電の料金は抑えられ、値上げは回避した。一方、石炭や液化天然ガス(LNG)など燃料高に見舞われている火力発電の依存度が高い北陸電や沖縄電力は、値上げ幅が大きくなったというわけだ。

全国一律の政府支援策で事実上値下げの電力も

 地域差が目立つもう一つの要因は、政府による全国一律の電気代の負担軽減策だ。政府は昨年末に成立させた約29兆円の22年度第2次補正予算で、9月までの電気代などの負担軽減策として計2兆4870億円を計上した。

 電気代は8月使用分まで標準的な家庭で月2800円分、9月使用分は半額の1400円分が軽減される。それでも今回値上げする7電力の管内では、6月以降の電気料金は上がり、料金水準はロシアのウクライナ侵攻前の22年2月と同程度だ。一方で値上げしない関電や九電などの利用者も負担軽減策の恩恵を受けるため、事実上の大幅値下げとなる。

 政府の支援策の範囲を、所得や地域によって変えることが技術的に難しいことに加え、支援の有無などに地域差が生じることによる政権批判を避けたいとの思惑が全国一律支援の背景だ。

急がれる政策転換

 だが、燃料費の高止まりが続く中、巨額財政支出の持続性は乏しい。経産省からも「ばらまきをするお金があるなら、電気の使用量を減らす省エネ政策に費やすべきだ」(幹部)との声が漏れる。東京大の荻本和彦特任教授も「日本は電気やガス、ガソリンなどの価格を上げないようにする政策を続けてきたため、欧州などに比べてエネルギー変革の意識が社会に浸透していない。値上げが避けられない中で、どう社会を変えるかを考えるべきだ」と省エネや再生可能エネルギーの普及加速など大胆な政策転換を訴える。

電気料金が選ばれる地域の条件に

 電気料金の地域差拡大は企業向けでも同じ傾向にある。電気料金が安い地域は企業から選ばれる一方、電気料金が高い地域は、産業競争力が低下し、人口流出や企業進出の減少などにつながる可能性がある。

 実際、電力多消費産業の筆頭である半導体でその傾向は顕著だ。半導体受託製造の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)やソニー子会社は熊本県で工場建設などを進めているが、九州を選んだ理由のひとつは安価な電気料金だとされている。九電管内は、原発の再稼働だけでなく、安価な太陽光の普及も奏功している。

 北海道に工場建設を決めた次世代半導体の国産化を目指す新会社「ラピダス」も、道内の豊富な再生可能エネルギーを決め手のひとつとしている。足元の電気料金は高い北電管内だが、今後、風力発電の拡大が見込まれているためだ。

 経産省幹部は「高い電気しか供給できない電力会社は淘汰(とうた)されていくだろう。自由化で電力会社を選べるので『電気は九電や関電から買えばいい』という極端な世界になるかもしれない」とする。【佐久間一輝、井口彩】

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