東日本大震災で全壊し、昨秋再建された岩手県陸前高田市立博物館で二つの企画展が開催されている。一つは放映中のNHK連続テレビ小説「らんまん」の主人公のモデル・牧野富太郎から、同市出身で「岩手博物界の太陽」と称された博物学者・鳥羽源蔵に宛てた手紙。もう一つが3月に国の重要有形民俗文化財に指定された「陸前高田の漁撈(ぎょろう)用具」だ。いずれも津波で水没し、全国の博物館の協力で修復された品が多数展示されている。
鳥羽源蔵は1872年生まれ。地元の小学校や岩手県師範学校(現岩手大教育学部)で教員として勤務する傍ら、考古学や昆虫学などを幅広く研究し、1946年に死去した。植物学では30歳ごろから牧野に師事し、多くの資料をやり取りしたという。博物館に、はがきや手紙20通が収蔵されており、入れ替えながら公開する。
牧野が1927年に送った手紙は「その枝をお送りくださいますれば東京で撮影しようと思っております」と植物の採取を依頼。別の手紙ではササの新種に「トバ」と名付ける構想を伝えた。旅先からの帰りに鳥羽宅への宿泊を依頼する文面では「いろいろ費用が要りますので無銭旅行です」と懐具合を明かすなど交遊の深さがうかがえる。
同館の熊谷賢(まさる)主任学芸員(56)は、手紙で牧野が鳥羽に付けた敬称に着目し「時期が進むにつれ、様から賢台など敬意の強い表現に変化している。10歳年上の牧野が鳥羽との関係を大切にしていたことが伝わる」と解説する。展示は9月29日までの予定。
「陸前高田の漁撈用具」は、世界三大漁場の一つの三陸沖で、主に明治から昭和初期にかけて地元漁業者が使った釣り具などで構成。震災で123点が流出したが、その後1106点を追加し、計3028点が文化財に指定された。今回は他地域でも「気仙カギ」として使われたアワビ採取用の鉄製かぎや、千葉県の風習を模した大漁時の祝着「看袢(かんばん)」など約300点を展示している。6月25日まで。
陸前高田市立博物館は、東北初の公立博物館として1959年1月に開館。鳥羽源蔵の教え子が開設に尽力したとされる。東日本大震災による津波で全壊したが、2022年11月に再建された。津波で計56万点の資料が流出したが、46万点を回収し、今も修復作業が続いている。【奥田伸一】