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「科学的に未精査の資料」も コロナ記録集に見る専門家の教訓


 「政府から科学的に精査されていない資料が出てきた」「医療機関からのファクスは字がつぶれて読めない」――。新型コロナウイルス対策に関わってきた官僚、国の有識者会議の専門家、保健所・地方衛生研究所の幹部ら90人がまとめた記録集が公表された。500ページに上る資料には、最前線で直面した課題や教訓が克明につづられている。

政治との距離感

 記録集のタイトルは「新型コロナウイルス感染症対応記録」。日本公衆衛生協会のウェブサイトで27日に公表された。厚生労働省の補助事業で、2020~21年の2年間の感染症の流行状況や国、保健所、医療機関などの対応をまとめたものだ。対策の総括はせず、それぞれが感じた課題や教訓を記した。

 国立感染症研究所の脇田隆字所長は、座長を務める厚労省の助言機関「アドバイザリーボード(AB)」の運営の問題点を指摘した。会合は感染拡大時には、毎週のように開かれた。このため感染症の専門家は分析や資料作成に追われて、課題を深く掘り下げた議論ができなかったという。

 政府との関係も悩みの種だ。緊急事態宣言を出すべきだという科学的な結論について、詳しい経緯は明かしていないものの、「政治的な意図でなかなか出せないことがあった」と振り返った。提言を出す前に厚労省が難色を示すこともあり、最近では早い段階から内容を調整していたという。

 政府から科学的に精査されていない資料が突然出てきたことがあり、脇田氏は「残念に感じた」という。感染研所長は「厚労省に雇われる公務員」だとして、独立性を保つためにABの座長は「独立行政法人のトップや大学の先生がなる方がよいのかもしれない」とした。

 政府の有識者会議「新型コロナ対策分科会」の尾身茂会長は、コロナ対策の提言を発表しても、その根拠となったデータや考え方が国民に伝わらなかったと悔やんだ。政府が専門家の意見を採用する時としない時があると「市民の目には決定プロセスが不透明に映る」として、政府が意思決定の流れを明確にする必要性を強調した。

緊急事態宣言の影響「分析を」

 分科会委員の大竹文雄・大阪大特任教授は、緊急事態宣言が経済や社会にどのような影響を与えるかリアルタイムに計測してこなかったため、感染対策が行動制限に偏った可能性があると指摘。「政府内に、感染対策の社会・経済への影響を分析できる専門家チームが当初から必要だった」と主張した。

 藤田利枝・長崎県県央保健所長は、医療機関が患者の「発生届」をファクスで送り、字がつぶれていたため、確認作業が必要だったと説明。国はインターネット経由で報告するシステム「HER-SYS」を開発したものの、医療現場に浸透するまで時間がかかった。新しいシステムは、パンデミックが起きる前に確立しておくべきだ、と強く求めた。

 今回の対応記録を中心になってとりまとめたのは、正林督章・前厚労省健康局長だ。正林氏は、日本は欧米などの先進諸国と比較して感染者や死亡者は少なく、「対策は功を奏してきた」と振り返った。

 ただ、09年に新型インフルエンザが流行した後、有識者会議が保健所の人員増強や検査体制の強化を提言したものの、国が十分に対応してこなかったと指摘。「次のパンデミック(感染症の大規模流行)に向けて対策を強化していくべきだ」と述べた。【原田啓之】

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