高知県が、国民健康保険の保険料水準を県内で統一する作業を進めている。市町村ごとに保険料を決める現在の仕組みのままだと、医療費の増大と加入者の減少で保険料が激しく変動しやすくなってしまうためだ。少子高齢化がいち早く進んできた高知県の取り組みは、全国的なモデルの一つになる可能性がある。保険料の統一作業について、QA方式で読み解いた。
深刻な医療費の増大と加入人口の減少
■国保制度とは
――国民健康保険ってどういう制度なの？
◆おおまかに言えば企業など職場での健康保険（被用者保険）に加入していない人が入る公的な健康保険です。業種ごとでつくる組合の国保と市町村が運営する国保があり、今回保険料水準を一本化しようとしているのは市町村国保の方です。
加入者は毎月保険料を納めておけば、医療費の自己負担は実際にかかった額の一定割合に減らされます。自己負担の割合は、就学前まで2割、就学後から70歳未満が3割、70歳から75歳未満が2～3割（所得に応じて決まる）とされています。国民全員が保険の恩恵を受けられる「国民皆保険制度」を支える大きな柱になっています。
■制度存続のため
――高知県はなぜ保険料の制度を変えようとしているの？
◆今のやり方では制度が続けられなくなる可能性が高まっているからです。特に医療費の増大と加入人口の減少が深刻です。2020年度の高知県の1人当たりの医療費は43万7150円と全国8位の高さ。1人当たりの保険給付費は、11年度の29万6893円から20年度には37万8292円と27％も増えました。年齢構成が高まっていることが一因とされます。一方で、保険加入者は11年度の22万813人から20年度には16万5301人と25％減りました。今後も団塊の世代が後期高齢者医療制度（原則として75歳以降）に大量移行するため、今のペースが続けば30年度には12万2000人程度に減ると県は推定しています。
支え合い、市町村内から県内に
■格差とぶれを軽減
――加入者が減ると問題があるの？
◆加入者が少ないと、市町村ごとに保険料に格差がつきやすいのです。かかった医療費などを参考に市町村が保険料を決める現行制度では、市町村ごとに計算方法が異なるため、かなりの差が出ます。例えば20年度のデータでは1人が実際に払った平均保険料は高知市で11万810円、最も高い芸西村で13万9953円、最も低い大川村で4万9280円でした。また、同じ自治体でも年ごとに保険料は変わります。大川村では、保険料を決める大きな要素である1人あたり保険給付費の10年間（11年度から20年度）での最高額と最低額を比べると最大2・1倍の開きがありました。人口の少ない自治体では、少数でも高額医療費が発生すると保険料が変動しやすい構造があります。
――保険料の見通しが立たないと、毎年びくびくしなくちゃいけないよ。どうすれば安定するのかな。
◆そのために、県内で保険料を統一するのです。市町村内で支え合っていた仕組みを、県内全体で支え合う仕組みに変えれば、市町村格差や年ごとの保険料のぶれは緩和され、安心につながります。そもそも国の制度ですから、どこに住んでいようと保険料は同じであることが望ましいのです。県は「どの市町村に住んでいても、同じ所得、同じ世帯構成であれば同じ保険料」を目指すとしています。
――でも、保険料が高くなる自治体も出るんじゃないの？
◆その通りです。特に、健康づくりに積極的に取り組んで医療費を抑えてきた自治体からは不満の声がありました。また保険料を規定通りに集める率（収納率）も自治体によって差があり、不公平感もあります。
ただ、このままでは制度自体の存続が危ぶまれるという危機感は全自治体が共有しています。このため、県は保健事業の底上げや医療費低下に努力する自治体を支援する仕組みづくりを検討します。また、医療費の精緻なデータ分析を通して、健康寿命を伸ばしながら、医療費全体を減らす努力をする計画です。
少子高齢化は逃れられない
■30年度に保険料統一
――いつから保険料は統一されるの？
◆県と自治体が丁寧な議論と説明をするため、段階的に対応を進めて30年度に完全統一する計画です。22年8月に知事と市町村長が統一する方向性で合意しており、23年6月にも最終的なとりまとめをする予定です。愛媛県も23年度中に今後の保険料統一に向けた取り組み方針などの計画を作る考えです。保険料の統一は国が強く支援しています。少子高齢化から逃れられる自治体はなく、国全体で国保をどう維持するかが問われており、全国的に統一に向けた動きが始まっています。【小林理】
