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ネットに不可欠な光通信 画期的な技術を開発した立役者


 世界中の人とSNS(ネット交流サービス)やオンライン会議でつながったり、海外の映画を動画サイトで見たり……。生活の必需品になっているインターネットに欠かせないのが光通信だ。その技術を開発した立役者として、「日本版ノーベル賞」とも呼ばれる日本国際賞を今年受賞した。

 光通信では「光ファイバー」という直径0・1ミリほどの細いガラス管で情報の信号を伝える。しかし、光ファイバーを通る光の信号は長い距離を進むうちに弱まってしまう。そこで一定の間隔で増幅させる装置が必要だったが、装置は冷蔵庫ほどの大きさのうえ、増幅の効率が悪いことも課題だった。

 NTTの研究員だった1980年代、レアアース(希土類)の一つ「エルビウム」を装置の部品に加えることで、エネルギーで光の信号を増幅する方法を考案した。エルビウムにレーザー光線を当てるとエネルギーが蓄えられ、効率的な増幅ができるというものだ。

 その後、光の信号を最大1万倍も増幅させる装置を実際に開発。弁当箱ほどへの小型化も成し遂げた。89年、その成果を論文で発表した。「『光通信が変わるぞ』と同僚に言われたのを、今でも覚えている」と振り返る。

 その「予言」は現実になった。90年代以降のネットの普及とともに、光ファイバーは全世界で整備された。

 陸上だけでなく、太平洋や大西洋の海底にも敷かれ、総延長は地球30周分といわれている。数十キロごとに、自身が開発した原理が使われている増幅装置が設置され、世界中の光通信の礎となっている。「一から作った増幅装置。今日の光通信を支えられてよかった」

 養蚕農家の長男として生まれ、理科が大好きな少年だった。中学生の時、真空管ラジオを作る授業に興奮した。物理の理論にのっとった設計図の通りに作れば、きちんと音が出る。はにかみながら「とにかく手を動かして作るのが好きで、ラジオの製作は科学の美しさに魅せられた瞬間だった。あの延長線上に『エルビウムの弁当箱』があるかな」と語る。

 東日本大震災のあった2011年3月11日、東北大電気通信研究所長として東京都内の会合に出席していた。数日かけて仙台市内に戻り、衝撃を受けた。街は夜になると停電で真っ暗。「無線も光通信もずたずただった」

 災害に強い情報通信ネットワークの必要性を痛感した。この年の10月、自治体や民間企業も巻き込んで、大学内に電気通信研究機構を創設。初代の機構長に就任した。

 災害や新型コロナウイルス禍も経験した社会で、情報通信の重要性は今なお増している。世界でやりとりされる情報量はとどまることを知らない。「まだまだやらなければならないことは山ほどある」。大容量で高効率、そして安定した次世代の情報通信に向けた研究を日夜続けている。【松本光樹】

なかざわ・まさたか

 1952年、山梨県豊富村(現中央市)生まれ。東京工業大大学院修了。現在は東北大卓越教授。

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