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時代遅れ?「県民手帳」生き残れるか 5万部超ベストセラーの県も


 観光名所や年中行事、特産物など各地のご当地データを盛り込んだ「県民手帳」が、相次いで姿を消している。広島県は2022年版を最後に発行を終え、滋賀県と大分県は23年版で幕を閉じる。デジタル端末やウェブ上で予定を管理する人が増え、紙の手帳離れが進んだことなどが背景にある。ただ、わが街の姿を統計の形で知ってもらおうと、生き残りをかけて工夫を凝らしている地域もある。

起源は昭和初期 戦後になり一般販売

 県民手帳の歴史は、昭和初期に国勢調査の調査員たちに、統計データをまとめた手帳を渡したのが起源とされる。訪ね歩いた家々の人たちから、逆に自治体の状況などをよく質問されたためだ。群馬県では1946年に年間のスケジュールや、メモが書き込める県民手帳を発行したとの記録が残るなど、戦後になって各自治体が一般向けに発行・販売を始めたとみられる。その後、県統計協会などに手帳の業務が移管されたこともあり、明確な記録や歴代の手帳が残っている自治体は珍しい。

 「『続けてほしい』との要望もあり、力不足を感じる」。滋賀県民手帳の編集・発行を担当する県統計協会の担当者は力なく語った。地元テレビや県民向けの広報誌に広告も出したが、販売数が大きく伸びなかったという。ピーク時の70年ごろは年間約2万5000冊を発行したものの、21年版は約7600冊まで減少し、「手帳の役割を終えた」と判断して23年版を最後に発行をやめることになった。

県民手帳で嫁ぎ先の土地柄を知った

 青森県弘前市の自営業、斎藤美佳子さん(48)は、県民手帳を長年愛用してきた一人だ。北海道生まれで、結婚を機に青森に引っ越してきたが、天気予報で「上北地区」や「三八地区」などと見聞きしても、県内のどの地域か分からなかった。そこで県の地図や情報が載っている県民手帳を買ったのが使い始めたきっかけだ。「巻末にある農作物のデータや観光案内など、県の大枠と詳細を一冊で知られるのでとても役に立った」と話す。

 だが、ウェブ時代の波は愛好家にも押し寄せる。「データは毎年は変わらないし、スマホとパソコンでスケジュール管理をするようになった」と斎藤さん。ここ数年は県民手帳を買わない年もあった。ただ、津軽地方に伝わる刺し子「こぎん刺し」などの織物をカバーにデザインした限定品の県民手帳には魅力を感じ、手に入れば買っていたという。発行中止を決めた各県の統計協会担当者は「紙の手帳離れが加速している」と口をそろえる。

 さらに、県民手帳に載るような「ご当地データ」はインターネットの普及に伴って各自治体のホームページや観光紹介のサイトでも見られるようになり、県民手帳を買う必要性は薄れてきている。自治体などが統計資料などのウェブ公開を進めたことで、統計冊子や県民手帳の発行を主な業務としてきた地方の統計協会が解散するケースもあるという。

発行部数ナンバーワンの長野は

 東京や大阪など都市圏を中心に発行を取りやめる中、23年版は39県で販売された。とりわけ人気があるのは、発行数約5万5000部を誇る長野県だ。同県統計協会の担当者は「税込み550円で他県より若干安いとは思う。ただ、人気の秘密は正直言ってわからない」と不思議がる。

 色は濃い紫と薄ピンクの2色あるが、サイズは同じだ。近年、紙の手帳を好む人たちの間では、ページはマス目かけい線か、月曜始まりか日曜始まりかなどと使う側のニーズの多様化に合わせ、オリジナルの手帳を作れる「カスタマイズ」が人気だ。それでも、固定ファンは継続して、県民手帳を購入しているという。担当者は「『もう少しサイズの大きい手帳もほしい』『統計のページを減らしてほしい』という意見も頂いているが、あまりスタイルを変えないことが、逆にファンの多さにつながっているのかもしれない」と推測する。

「くまモン」「武田菱」のデザインも

 あの手この手で手帳をPRする県もある。千葉、鹿児島、愛知県では、県民手帳を示すと、県内の道の駅でソフトクリームのサービスが受けられたり、各種博物館などで割引サービスがあったりする。

 三重県は、伊勢神宮のスギで作ったしおりを付録とし、山梨では戦国武将の武田氏の家紋である武田菱(びし)をあしらった限定版を発行している。熊本、群馬の両県では、それぞれ「くまモン」、「ぐんまちゃん」という、話題の「ご当地キャラ」を前面に打ち出した手帳があり、根強い人気がある。

 滋賀県では20年、県民を巻き込んだイベントで手帳の認知度を向上させようと、統計協会が「最古の県民手帳を探せ」と題したイベントを開いた。発行を始めた55年から73年までの、協会に残っていなかった手帳を募集したところ「父が使っていた」「当時は今と違って手帳の存在自体が珍しい時代だった」などのコメントとともに、多くの手帳が集まり、県庁で展示会も開いたという。

 滋賀県統計協会の担当者は、こうした歴史を振り返りつつ、23年版が最後になることについて「長い間作ってきて、発行者として寂しく感じる」と語った。【大澤孝二】

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