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高まる緊張、外交の針路は=「非軍事」の戦略探る―東アジア情勢


 中国が1995~96年の「台湾海峡危機」を上回る大規模な軍事演習を展開し、東アジア情勢は緊迫した。ロシアのウクライナ侵攻を受け、大国による武力行使への懸念も高まっている。防衛力強化の議論が先行するが、非軍事的手段を通じ緊張緩和を模索する試みもこれまで以上に重要だ。有識者に「外交の道」を尋ねた。  ◇ミドルパワー連携で共存戦略を  添谷芳秀慶応大名誉教授(国際政治)の話 今回中国は1990年代よりも軍事演習をアップグレード(格上げ)したが、大枠では「軍事力の政治的利用」という意味で予定された行動だ。米国もそれは分かっており、深刻な危機というわけではない。中国は台湾の「独立」阻止や主権問題の争いの中で軍事力を活用してはいるが、実際に台湾を攻めたり、沖縄県・尖閣諸島を取ったりする選択肢はない。  一方で、日米の一体化が深まったことで、軍事的にも日米対中国という構図に変わってきた。米国と一蓮托生(いちれんたくしょう)となり、中国との軍事対立に引き込まれることが、日本の戦略的思考の落としどころなのか。本当にそれで良いのか。日米安保体制は日本にとって基本だが、そこに安住しているだけでは外交の選択肢が袋小路に陥る。  地理的宿命として、中国とは共存せざるを得ない。当面抑止が必要である一方で、中長期的に地域諸国と一緒に共存戦略を考えていくという外交領域が全く未開拓だ。  中国では、自国中心のアジア秩序を実現するのが「中国の夢」で、それが当然だという感覚が復活している。アジア諸国は、こうした衝動にどう対応していくかという視点を共有しなければいけない。そこで米国との関係は重要だし、中国との相互依存も壊せない。それを一国ではなく多国間で考える、これが共存戦略のイメージだ。  アジア地域協力を考えるとき、韓国が入っていないのは大きな欠陥だ。中国との共存戦略を考えるという形でアプローチすれば、韓国も乗ってくるはずだ。これに関しては、日豪印韓というミドルパワー(中堅国家)4カ国による「ミドルパワー・クアッド」の連携をつくった上で、東南アジア諸国連合(ASEAN)との関係を高めていくという構想を提示したことがある。  現実のインド太平洋の多国間主義は、種々の協力枠組みが重層的に組み上がって構成されている。北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に招かれた日韓豪とニュージーランドの「アジア太平洋パートナー(AP4)」もある。日本はそれらすべてで中心的メンバーであり、岸田政権にはミドルパワー連携による強靱(きょうじん)な秩序形成をリードしてほしい。  添谷 芳秀氏(そえや・よしひで)上智大院外国語学研究科修士課程、米ミシガン大院博士課程修了。慶応大法学部教授を経て、20年から同大名誉教授。09年の日韓首脳会談で始動が決まった「日韓新時代共同研究プロジェクト」のほか、政府の各種有識者懇談会に参加した。67歳。著書に「日本の『ミドルパワー』外交―戦後日本の選択と構想」(筑摩書房)など。  ◇緊張緩和へ対話支援必要  宮本雄二元駐中国大使の話 中国が台湾周辺で軍事演習を実施したのは、ペロシ米下院議長の台湾訪問だけが理由ではない。トランプ政権に始まりバイデン政権まで続く米国の台湾に対するてこ入れを、中国は一連の流れで捉えている。ペロシ氏の訪台を機に「一つの中国」という中国の譲れない一線を越えようとする米側に、「我慢できない」と意思表示したのだろう。  台湾海峡をめぐる緊迫した状況は高止まりが予想され、米空母が台湾海峡を通過すれば緊張はさらに高まるとみる。軍事や安全保障の考え方では、軍事力を拡大させる方向にしか進まない。その結末は衝突だけだ。米中とも軍事力増強の方向に流れており、間違いなく外交の力が必要になる。  中国は変わらないという見方もあるが、1949年の建国以来、常に試行錯誤を続けている。習近平体制の政治重視の対外強硬路線が、経済重視に変わることもあり得る。日米関係や、戦略的意味での台湾が重要な一方、日本の隣に存在する中国との関係も重要で、平和的関係を維持しなければならない。  中国は変わるという前提の上で、協調せざるを得ない国として付き合っていくべきだ。衝突へのコースを歩む米中が対立をいかに回避するかという点で、日本外交の果たす役割はあるはずだ。本来は米中が直接対話すべきだが、相互信頼がすり減る中、意図せぬ軍事衝突をいかに避けるかが重要で、日本は米中の緊張の度合いを下げる側面支援をしなければならない。  まずは緊密な意思疎通を図り、日本の状況判断を米側に伝える必要がある。ペロシ氏の訪台に関して言えば、中国が強く反発し緊張が常態化する事態を日本として懸念していると米側に、少し威嚇を控えてほしいと中国側に、それぞれ伝えることもできた。  外交には相手との信頼関係が不可欠だ。中国との関係も、これまで築いたものがある。秋葉剛男国家安全保障局長と楊潔※(※竹カンムリに褫のつくり)共産党政治局員の会談が対話のスタートになればいい。  信頼を得るには、協力が利益になることを国民に示す努力も必要だ。気候変動や感染症といった人類共通の課題をテーマに日米中のプログラムを立ち上げ、信頼の基盤を築く。東南アジア諸国連合(ASEAN)や韓国に参加してもらうのもいい。  宮本 雄二氏(みやもと・ゆうじ)京大法卒。69年外務省に入り、中国課長、アトランタ総領事、ミャンマー大使などを歴任し、06年から10年まで中国大使。現在、日本アジア共同体文化協力機構理事長、日中友好会館会長代行。76歳。著書に「これから、中国とどう付き合うか」(日本経済新聞出版社)、「習近平の中国」(新潮新書)など。 【時事通信社】 〔写真説明〕添谷芳秀 慶応大名誉教授(本人提供) 〔写真説明〕宮本雄二氏 元駐中国大使
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