ヨガをすることがポピュラーなことになった今、その教えを日常に取り入れたいと考えている方も多いでしょう。専門書を手に取るのもいいですが、書店に並ぶ本の中にもヨガのエッセンスが詰まったものがあります。そこでヨガスクールの講師としてインストラクターを養成している筆者が、ヨガの教えをより身近に感じてもらえる1冊をご紹介します。第4回は「愛する人と生きる人生」をテーマにしたエッセイです。
出典:荒木陽子 エッセイスト
写真というアートで人生を体現する
2年前の2017年の秋は「芸術の秋」と称し、いくつかの展覧会に出かけました。その中でも特に印象に残っている展覧会があります。東京都写真美術館で行われていた荒木経惟写真展『センチメンタルな旅1971−2017』です。
若い頃に写真というアートに興味を持ち、よく展覧会へ出かけていました。最近はめっきり行かなくなってしまっていたので、久々に写真作品を間近に鑑賞する機会はとても良い体験でした。
僕自身の若い頃がなんだか懐かしいなという思いの中、この展覧会自体が陽子さんとの関係性やその影響力がテーマなので、もう一度この本を読んでみようと思ったのです。
荒木さんと陽子さんの新婚旅行をテーマとした写真は、今やアートの世界では伝説となり、そのワンカットである、柳川の川下りの船の中で小動物にように横たわり、うたた寝をしている陽子さんの無防備かつ儚いイメージはとても有名です。
愛する人と生きる人生=旅
電通のタイピストだった陽子さん22歳、同じく電通のカメラマンであった荒木さん27歳。2人の出会いは冬の終わり頃だったといいます。
陽子さんのエッセイである『愛情生活』は2人が出会い、愛を育み結婚をしてからの夫婦生活が描かれています。レストランでの食事や旅行の思い出などが回想され、およそ10年間の間に書かれた文章は2人の22年分の記憶から構成されています。
カメラを持たないはずの陽子さんですが、彼女の記憶から紡ぎだされた文章は、細かいディテールに溢れているのが魅力的で、特に旅行の回想記を読んでいると、まるで僕が家族としてその場に居合わせたかのような臨場感を覚えるのです。
陽子さんのお母様は「荒木さんが世界的に有名な写真家になると解っていたのか」と尋ね、陽子さんは以下のように答えています。
今をつなぎ止めるのではなく“今をきちんと生きる”こと
仲睦まじい2人の発言から、彼らが自分たちの運命に従い、直観を信じて結ばれたのだなと感じます。しかし、いつまでも続くはずの「愛情生活」ですが、最後のエッセイから2年後の1990年に陽子さんは子宮肉腫によってこの世を去られます。
その軌跡が荒木さんの写真集『センチメンタルな旅、冬の旅』として発表されました。新婚旅行での写真集を“私写真家宣言”として発表してから20数年後、妻の死をも作品としてハイアートに昇華する荒木さんは、全身で写真家を体現しているのだなと思います。
しかし、ヨガと出逢い、今この瞬間を丁寧に生きることの大切さを学んだことで、肉体は朽ちたとしても魂の存在は永遠であると知りました。今をつなぎ止めることは不可能であり、今にしか存在することはできないのだという真実を受け入れることで、過ぎ去る瞬間を追い求める衝動は消え去りました。