就職活動といえば、履歴書や面接といった“型”を思い浮かべる人も多いかもしれません。けれど今、クリエイティブ業界ではその常識が少しずつ変わりつつあります。自分の作品やスキルをプレゼンし、企業と直接つながる。そんな新しいスタイルのマッチングイベントが注目を集めています。
デジタルハリウッドが主催する「クリエイターズオーディション」もそのひとつ。クリエイターを目指す受講生が卒業制作などを通じて自らをアピールし、企業担当者とのリアルな接点を持てる場として、多くの関心を集めてきました。2008年から続くこのイベントは、採用だけでなく、フリーランスや業務委託のきっかけにもつながる実績ある機会です。
第70回を迎えた今回は、東京・大阪・福岡の3拠点から計76名の受講生が参加し、企業側は107名が来場。プレゼン、名刺交換、作品紹介などを通じて、クリエイターと企業の“相互理解”を深める場となっています。
就職の形が多様化する今、自分らしいキャリアを考えるヒントが、こうした取り組みの中に見えてきます。
時代の流れとともに進化する「就職のかたち」

就職活動といえば、企業に履歴書を送り、面接を受けるというイメージが一般的ですが、いま、クリエイティブ業界ではその“形”が少しずつ変わり始めています。企業と人材のあいだに、新しい「出会い方」が生まれているのです。
デジタルハリウッドが主催する「クリエイターズオーディション」は、そんな時代の変化を象徴するようなイベントです。これは、CG、映像、Web、インタラクティブコンテンツなどの分野を学ぶ受講生が、自らの卒業制作を企業担当者の前でプレゼンテーションし、スカウトのチャンスを得ることができる“マッチング型求人イベント”となっています。

特徴的なのは、就職希望者だけでなく、フリーランス志望の受講生にとっても意味のある場となっている点です。実際に、業務委託やアウトソーシングのパートナーを探す企業も参加しており、働き方の多様化に対応した柔軟なマッチングが行われています。
また、参加する受講生の多くは、異業種からの転職やキャリアチェンジを目指す社会人経験者。これまでの実務経験に加え、デジタルハリウッドで身につけたクリエイティブスキルを融合させた“実践型人材”として注目されています。仲間と切磋琢磨しながらコミュニケーション力やプレゼンテーション力も磨いており、企業が求める柔軟性や適応力に富んだ人材が集まっているのも、このイベントならではの魅力です。
就活の新しい形を映し出すこのオーディションは、単なる発表の場ではなく、時代に合った“リアルな出会いの場”として、企業と受講生の双方にとって価値ある時間となっているようです。
多様な背景を持つ受講生たちが挑む“リアルな一歩”

デジタルハリウッドの受講生には、異業種からクリエイティブの世界へ飛び込んだ社会人が多く見られます。これまでの経験に新たなスキルを掛け合わせた、実践力のある人材が育っているのが特徴です。
そうした仲間と刺激を受け合いながら、作品制作だけでなく、コミュニケーションやプレゼンテーションといった実務に近い力も磨かれています。企業が求める柔軟性や対応力を備えた人材として、さまざまなキャリアの可能性に挑もうとする姿が印象的です。
プレゼンテーションに登場した注目クリエイターたちの作品紹介
クリエイターズオーディションのステージでは、受講生を代表する5名が登壇し、それぞれの専門分野で取り組んだ作品を企業担当者の前でプレゼンテーションしました。映像やグラフィック、Webデザインなど、ジャンルは多岐にわたり、いずれも実践的で個性の光る内容ばかり。ここでは、その5名の取り組みと作品の概要を紹介します。
見る人を幸せにする“ご褒美ジェラート”の世界観

Webデザイナー専攻の今田良紅奈さんが制作したのは、「食べると幸せになるご褒美ジェラート」をテーマにしたWebサイト『Gelatopia』。GelatoとUtopiaを掛け合わせたネーミングには、見る人にとっての“幸せの場所”であってほしいという願いが込められています。ポップな色使いや装飾、動きのあるデザインで、見ているだけでワクワクする世界観を表現しています。
Gelatopia 公式サイト( 架空 ):https://gelatopia.jp
日常の中にある“魔法”を映像と音楽で切り取る

動画クリエイター専攻の喜屋武里彩さんが制作したのは、「魔法のレンズ」と題したミュージックビデオ作品。日々の生活のなかに埋もれてしまいがちな“美しさ”に目を向けることの大切さをテーマに、映像と音楽でその瞬間を描いています。
視点を少し変えるだけで、当たり前だった風景や表情が新しく見えてくる。そんな“魔法”のような気づきを、やわらかい映像表現と音の重なりで丁寧に表現した一作です。
自分だけの“AIモデル”で楽しむ試着体験

UI/UXデザインを学んだ三好悠菜さんが提案するのは、ファッションECの新しい形を目指したアプリ「sukina」。オンラインショッピングでありがちな「試着ができない不安」を解消しながら、新しいスタイルに出会う楽しさを演出するアプリケーションです。
ユーザー自身の顔や体型、骨格に合わせて作成される“AIモデル”を用いることで、服やメイクの試着をリアルにシミュレーションできる仕組みを構築。見た目だけでなく、体験そのものをアップデートする設計が印象的です。
技術による試着アプリ:「sukina」
https://student.redesigner.jp/portfolios/PF03d86048e9cd4e74a0a86728ecddc0da
おとぎ話の世界を描いたCGショートムービー

CG/VFX専攻の斎藤玲衣奈さんが手がけたのは、童話のような世界観が広がるCGショートムービー。15〜16世紀のイギリス建築をベースに、ドイツやチェコの街並みを思わせるメルヘンな要素を取り入れ、アヒルたちがのんびりと過ごす穏やかな日常を描いています。
「制限のない環境で贅沢に作ってしまおう!」という意気込みのもと、細部まで丁寧に作り込まれた本作は、見る人にやさしく温かな気持ちを届けてくれる作品に仕上がっています。ふんわりとした空気感や、どこか懐かしい景色が印象に残る映像です。 作品『ゼンマイ仕掛けの不思議な町』
“Houdini”への挑戦が詰まった映像表現

CG/VFX専攻の太田アトムさんは、「Houdiniのプロになりたい」という思いを軸に、映像作品『PREQUEL』を制作しました。VFX制作ツールであるHoudiniを中心に据えたワークフローを構築し、自ら組み上げた手法で作品を完成させています。
試行錯誤の連続だったという制作過程には、満足いかない点も多かったといいますが、その過程で感じた苦労が自らの糧となり、リアルな技術として身についていったと語ります。仕上がった作品には、学びと成長の軌跡がしっかりと刻まれており、VFXへの真摯な姿勢が感じられる仕上がりとなっています。
自分の「好き」が誰かとつながるきっかけに
就職活動やキャリア形成というと、どこか堅く感じられることもあるかもしれません。けれど今回紹介したクリエイターズオーディションのように、自分の「好き」や「得意」を形にし、それを誰かに伝える場があるというのは、とても前向きで希望の持てる取り組みに感じられます。
映像、グラフィック、Web、UI/UXなど、多様な分野で挑戦を続ける受講生たちは、それぞれが異なるバックグラウンドを持ちながらも、表現することの楽しさや、自分なりの価値を届けようとする熱意にあふれていました。
企業からの反応も含め、こうしたイベントが次のステップにつながっていくことはもちろんですが、なにより大切なのは、挑戦するそのプロセスそのもの。自分の想いや世界観を発信することが、誰かとつながるきっかけになる。そんな可能性を感じさせる場として、今後も注目していきたいイベントです。