多様な働き方やライフスタイルが広がる中で、農業に興味を持つようになった人も多いのではないでしょうか。しかし、農業に興味があっても、「具体的にどこからどう始めていいのか分からない…」と、最初のきっかけを掴むのはなかなか難しいかもしれません。
そんな農業に縁のなかった人々に向けて、「職業としての農業の魅力」を知ってもらおうと、様々な取り組みをしているのが「農業の魅力発信コンソーシアム」です。“猫の日”である2月22日(土)、東京・コングレスクエア日本橋にて、「農業の魅力発信コンソーシアム」はイベント「未来を切り開く、農業の挑戦者になる!未来農業フェスタ2025」を開催。日本の農業のこれからを担う注目若手農業者が登壇したトークセッションや交流会が実施されました。約150人の農業関係者が集い、大いに盛り上がりを見せたイベントの様子をレポートします。
農業から地域を考えるトークセッション
この日、登壇したのはコンソーシアム参画企業がそれぞれ独自の視点から選出した「ロールモデル農業者」の皆さん。「農業を通じた地域おこし」をトークテーマとした第1部では、奥村光希さん/Orchard muku.(長野県喬木村)、清水雅大さん/とのわファーム(東京都青梅市)、石川智之さん、石川圭さん夫妻/いっぽファーム(岩手県平泉市)の4名が登壇。NHK『趣味の園芸 やさいの時間』に10年間出演するタレントの川瀬良子さんをファシリテーターに、5人5様の“農業ストーリー”を語ってくれました。
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子育てをしながら30歳という若さで就農した奥村さんは、長野県喬木村(たかぎむら)の出身。子供が幼く外で働けない期間、広大な果樹園を営む祖父母のもとで農業を手伝ううちに「子育てしながら働ける環境が農業にはあるという発見があり、私にとっては天職だと感じるようになりました」と、農業に興味を持ったきっかけを語ります。
「祖父の死をきっかけに、父の意向で閉園する予定でした。一旦、離農という形になったのですが、自分の大切な場所がなくなることへの悲しさや、祖父母が守ってきた土地を守りたいという思いから、農業への挑戦を決意しました」
家族からの猛反対。役場の担当者からは「なぜ今始めるの?定年後でもいいのでは」と言われ…。奥村さんは当時直面した数々の壁を振り返りました。その度に、熱いプレゼンテーションをしたり、本気度を伝えたりすることで、憧れの農業への道を切り拓いたそう。「ブランディングを確立し、将来的には海外輸出を目指したい」という彼女の夢に、来場者も大きく頷いて賛意を示していました。
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医療業界からの転身という珍しい経歴を持つのは、東京都青梅市でとのわファームを仲間と営む清水さん。前職の休業中、心の赴くままに色々とやってみた中で、青梅市で農業ボランティアを経験したことが、農業に興味を持ったきっかけだといいます。「畑の真ん中に立ったときのなんともいえない気持ちよさ、心がほどかれていく感覚」が忘れられず、会社勤めを続ける傍ら「アグリイノベーション大学校(AIC)」に通い、農業者への一歩を踏み出しました。
「青梅市は東京という名前で農業ができる点に魅力を感じています。新規就農者に対しても温かい地域で、新規就農者も多く情報交換ができます。ベテラン農家さんとも一緒に草刈りをするなど、コミュニケーションを積極的に取っています」と、地域とのつながりを語ります。
AIC同期とともに始めたとのわファームは3年目。「僕はボランティアという形で農業に片足を突っ込んだことで、今こうして農業をしています。農業を始めるのにどうしたらいいのかと悩んでいる人に、片足を突っ込んでもらえるような、農業を面白いと思ってもらえるような農園にしたい」と、ビジョンを語ります。
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石川智之さんと石川圭さんご夫婦は、岩手県でいちごやナス、とうもろこしなどを生産するいっぽファームを経営。祖父の代まで専業農家だった智之さんはUターンという形で、それまで首都圏を出ることがなかったという圭さんはIターンという形で、岩手県で就農します。
「文化や価値観の違いにはじめはびっくりしました。方言も最初は何を話しているのかよくわからなくって…。就農前に受けた研修先には、若い方やUターンの方も多くて、その方たちのサポートがあって1年くらいで馴染むことができました」と、圭さんはIターンならではの苦労を明かしました。
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大学進学と同時に地元を離れていた智之さんにとっても、地元へのUターンはIターンと変わらない気持ちだったといいます。「コミュニケーションの取り方が地域によってそれぞれある。そこをうまくできないと、摩擦が発生してしまうんだろうなと感じました。一方で、どの地域でも共通しているなと感じるのは、地域の人が入ってきた人をよく見ていることです。ちゃんとしたものをちゃんと作る、そういう姿勢や態度を示していると、周りから助けてもらえるようになるんだと思います」
圭さんが「誰かの一歩を支えられる農園を作っていきたい」とこれからの展望を語ると、智之さんは「仲間を増やしていってもらいたいと思います。同じ目線や歩幅じゃなくてもいいので、困ったときに頼りあって相談しあって肩を組み合える仲間を増やしていくことが大事なのかなと思っています」と、未来の農業者にエールを送りました。
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地域とのつながり、就農者同士のつながり、そして自身のビジョンに向かって踏み出すことの大切さを実感できるトークセッションとなりました。農業への愛にあふれたその内容は、来場者の心にも深く響いたようです。メモを取りながら、頷きながら、熱心に耳を傾ける来場者の姿が印象的でした。
情報交換や試食も!大盛況の交流会も実施
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トークセッション後は、マッチングブースでの交流会が実施され、こちらも大盛況。奥村さんの市田柿を試食した来場者からは、「こんな柿食べたことない」「買って帰りたいくらい」といった声も聞こえてきました。
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それぞれのブースで情報交換や質問が飛び交い、あっという間に交流会スペースは熱気で満ちていきます。トークセッションとあわせて、農業の明るい未来が思い描ける時間となりました。
■農業の魅力発信コンソーシアム:https://yuime.jp/nmhconsortium
<取材・撮影・文/双海しお>