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路上芸術家・バンクシーの作品は消されてなんぼ? 描いては消して…のイタチごっこに意味がある!




ロンドン時事によると、正体不明の路上芸術家・バンクシーが英国ロンドンの地下鉄車内に落書きした新作が、ロンドン市交通局の清掃員によって消されていたことが7月15日、明らかになったという。



 



その新作は「マスクをせよ、さらば与えられん」というタイトルで、地下鉄サークル線の車内に、マスクをパラシュートのように使って空を飛ぶネズミ、くしゃみで大量の飛沫を飛ばすネズミなどが描かれていたらしく、7月14日に自身の公式インスタグラムで公表されたことから、どうやら “ホンモノのバンクシーが描いたもの”と真贋されている……のだそう。



 



ネット上では「役所ならではの融通が利かない対応」「もったいない」「残しておけばン億円の価値があるのに…」……みたいな声もチラホラ散見されるようだが、はたして今回のロンドン市交通局清掃員による “仕事”は、芸術の観点からすると “大いなる愚行”だったのか?



 



私の個人的な見解を述べさせていただくなら、決して誤ってはいない、むしろ素晴らしい “英断”だと考える。「法を遵守しましょう」なんて道義的な根拠からではない。一芸術家として(※ゴメスの本業はイラストレーターw)、バンクシー本人がみずからの作品をそういう風に扱ってもらいたいと望んでいるのでは……と推測してやまないからである。



 



ちなみに、路上芸術(=グラフィティアート)の世界には、以下のような “暗黙の了解”が存在する。



 



・すでにあるグラフィティの上に描くには、さらに完成度の高い図案をつくらなければならない



 



・対象は公共施設・交通機関・巨大な建物とされ、個人商店・個人宅に描いてはいけない



 



・警察等に描いているところを咎められた時点で(その作品の)創作活動は終了とする



 



つまり、ストリートペインティングとは、そもそもが反社会的行為なのであり、その反逆性こそがアイデンティティの根元を成しているのだ。



 



過去にバンクシーは、約1億5000万円で落札された自作をシュレッダーにかけて話題を集めた。 “鑑定”されることによって「あなたの絵は1億円以上の価値がありますよ〜」「すごいですね〜」と体制側に認められる、取り込まれてしまった時点で、バンクシーにとってその作品は芸術性を失い、三文の得にもならない無価値な駄作へと変質してしまう(たぶん)。



 



バンクシーのペインティングは「作品」自体が芸術なのではなく、公共物の壁面へと大量生産的に描かれ、それが見つかったらその都度に消されてしまう──そんな権力と反権力とのイタチごっこ、そこから生じる刹那的な無常観、すなわち「行為」そのものが “芸術”と呼べる、いわばコンセプチュアルアートなのである。



 



だからこそ私は、一般的な落書きと同様にバンクシーの新作を “処理”した、もしかするとバンクシーの名前さえ知らず、すげなく消してしまった可能性すら捨てきれないロンドン市交通局清掃員のビジネス感覚を、誰がなんて言おうと評価したい。



 



本件を受け、ロンドン市交通局は「我々はバンクシーに、適切な場所で利用客に彼のメッセージを伝える機会を提供したい」とのコメントを寄せたと聞くが、それは論外。ピント外れにも程がある。あくまで「落書き」として事務的な対応を示すことこそが、バンクシーに対する最大の敬意であり、それ以上の称号や、前もって用意されたキャンバス、空間を献上したところで、バンクシーにとっては不本意以外の何物でもない……のではなかろうか。


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