■立て続けに肉親を亡くして
「どうもこのごろ、心身が不調なんです。検査しても、どこかが悪いというわけではないんですが」
そう言うのはヒデアキさん(47歳)だ。ずっと独身で、都内の実家に両親と暮らしていた。5歳年上の姉は結婚して遠方で暮らしている。
「実は2歳上の姉もいて、一家で都内の別の場所で暮らしていたんですが、一昨年、急死したんです。義兄や甥、姪は今も立ち直れてないみたい。両親も悲しみましてね、そのショックからなのか父も昨年、亡くなりました。気づいたときには末期がんで」
今は、母とふたりで暮らす。だがその母も、娘と夫に先立たれたことがつらかったのだろう、80歳を迎えた今年の初めころから、急に物忘れが激しくなった。
「身内に立て続けに死なれるのはきついですよね。僕だって姉の急死以降、あまり精神状態がよくないんです。しかも仕事も最近、あまりうまくいかなくて。会社の業績もよくないし、ボーナスもろくに出ないし。まったくいいことがないんです」
こんなとき、結婚していれば少しは気持ちが違っていたのかもしれないと思うこともある。それが過去への後悔につながっていき、心がさらにつらくなる。その悪循環にはまってしまったと彼は言う。
「30代半ばで結婚するチャンスはあった。僕が思いきってすればよかったのに、なんだかいざ結婚となったら怖くなってしまって。当時は、まだ独身生活が楽しかったし、自由がいちばんだと思っていたから、自分の生活が変わるのがイヤだったんでしょうね」
このまま自由で楽しい独身生活が続くと思い込んでいたのだという。
■45歳までは気楽だったが…
独身者も増えている現在、彼自身も2年前までは気楽に自由を楽しんでいた。だが、やはり姉の死からすべてが変わったような気がするそうだ。
「人は死ぬという当たり前のことを目の当たりにして、人生がこんなにあっけないものなら、自分を大事に思ってくれる他人、つまり妻とか子どもとかをもつべきだったと本気で思ったんです。義兄たちを見ると、今も姉のことを家族で語ってくれている。でも僕が死んでも、きっとすぐに誰も僕のことを語らなくなる。そう思うと、本気で寂しいなと感じます」
とはいえ、老いた母を抱えての結婚には踏み切る気になれない。妻に介護を押しつけるわけにはいかないし、そもそも妻となる女性に失礼だと思うからだ。
「それ以前に、恋愛からも遠ざかっています。恋愛できるだけの気力と体力がもうないと思うんです」
男としての容色も衰えたから、と彼は寂しげに笑った。まだまだ男盛りのはずなのに、彼からはやはりどこか寒い風が吹いているような寂寥感がある。
「結婚しているヤツのほうが元気ですよ。既婚者のほうが恋愛もしているかもしれませんね。家族との関係が人を元気にするのかもしれない。周りを見ても、僕同様、この年齢で一度も結婚したことのない男は、みんなどこかしょぼくれています(笑)」
誰にも家族として選んでもらえなかったことが、自信喪失につながっているとヒデアキさんは言う。女性の場合、ずっと独身でも元気な人が多いような気がするのだが、そこは男性ならでのプレッシャーがあるのかもしれない。