結婚して15年以上たつ夫たちに話を聞くと、意外というべきか「妻のことが好き」と言う人が多い。だが、それを言葉にして伝えているかというと、ほぼ全員が「照れくさくて言えない」「何か悪いことしているんじゃないの?と疑われそうで伝えられない」そうだ。夫からの愛情ある言葉を待っている妻は多いはずだが。
■「ありがとう」は言うけれど
妻と険悪な雰囲気になることだけは避けたいと言うオサムさん(44歳)は、意識して「ありがとう」という言葉を多用するという。
「共働きですが、ルールに縛られるよりはお互いにできることは率先してやろうと話し合っています。だから相手がやってくれたら、きちんとありがとうと言う。ちょっとオーバーに言うこともあります(笑)。ただ、結婚して本当によかったとか、愛してるとかは言えないんですよねえ。結婚して15年たちますが、ほとんど言ったことがないと思う」
身近な人に、心から愛情を伝えるのは確かに照れくさい。言ったほうがいいと思いながらも、「いつもと違うことを言うと不審がられるのではないか」という思いもついて回る。
「妻はさっぱりした性格なので、もともとあまり甘ったるいことを言わないんです。甘えてくることもめったにない。そんな雰囲気なので、こちらがムードたっぷりに愛してるなんて言ったら、『なんかあったの?』と言われそうで勇気が出ません(笑)」
こういう男性は多い。妻は自分よりさっぱりしていて、ロマンティックなことは好まないと思い込んでいるのだ。果たして本当にそうなのだろうか。
「どんなにさっぱりした女性でも、ときには甘いことも言われたいと思っていますよ」
反論するのは、ミエさん(49歳)だ。彼女も夫とは友だち夫婦だが、たまに愛の言葉くらい囁いてほしいと望んでいるという。
「年に1回、たとえば結婚記念日に、まじめな顔で『心から愛してるよ』って言われたら泣いちゃうかもしれませんね。日常的に言ってくれなくてもいいけど、たまにそんなふうに気持ちを伝えてくれたら、こちらの対応も変わると思います」
結婚生活が積み重なればなるほど、実はこうした言葉の効用は大きいかもしれない。
■勇気を出して言ってみた
40代になってから妻が不機嫌になったり、笑顔が消えたりすることが増え、気になっていたというのは、マサヒロさん(50歳)。
「ただ、こちらも忙しいので、妻の機嫌ばかりとっていられない。そんな気持ちがありました」
3年前、マサヒロさんが脳梗塞で倒れた。幸い、2週間ほどの入院とリハビリで、大きな後遺症はなかったが、妻は仕事の合間を縫って毎日のように来てくれたという。
「反抗期だった子どもたちも協力してくれたようです。今後のことも妻は医者ときっちり話してくれて。僕には毎日、笑顔を届けてくれたのがありがたかった。病気になるとどうしても気が弱るので」
仕事ではイケイケだったマサヒロさんだが、病を得てすっかり気弱になってしまっていたのだ。妻はわざとらしく励ますわけではなく、ただ笑顔で見守ってくれた。
「退院してしばらくたったとき、思い切って言ったんです。君と結婚してよかった、心の底から感謝してるし、愛してるって。妻はぼろぼろ泣いて、私にしがみついてきました。恋人時代を思い出しましたね」
以来、マサヒロさんはときどき、「愛してるよ」「大好きだよ」と口にする。妻は「私も愛してる」と返してくれる。
「不思議なんですけどね、愛してるよということで、より愛してる気持ちになってくるんですよ。お互いにそう思っているのか、最近、まったく口げんかひとつしなくなりました。言葉の力って大きいんだなと感じますね」
自分の口から出た言葉がフィードバックする効用もあるのだろう。心を言葉に変えていく努力、してみて損はなさそうだ。