人がふたりいたら、価値観も性格も一致などするはずもない。だがどこか惹かれるから結婚する。そして結婚してから、その不一致部分が大きくなったとき、どうすればいいのだろうか。
■お互いに変わっていくとわかってはいるけれど
自他ともに認める「ノーテンキ男」のタケヒロさん(40歳)。独身生活を楽しんでいたが、3年前、つきあっていた5歳年下の彼女が妊娠、「楽しい結婚生活を送ろうぜ」とノリで結婚した。当初は、そんな彼の言動を妻も笑っていてくれたのだ。だが最近、妻がつくづく言った。
「あなたとは合わない」
そんなことは最初からわかっていたことだし、違う環境で育ってきたふたりが合うほうが気持ちわるいと彼は言った。
「彼女は何でも深刻に受け止めるタイプなんですよ。生まれて数ヶ月の子どもが、他の子より成長が遅いと悩んでいた時期もありました。でも、子どもの成長なんてそれぞれでしょう。だから大丈夫だと言い続けた。そうしたら本当に大丈夫だった。それでも彼女は心配性をやめないんです」
あまりに心配しすぎて過干渉になるほうが、よほど子どもに悪影響があると彼は言う。そもそも、毎日、そうした些末なことで妻との間がぎくしゃくするのが耐えられない。
「僕は毎日笑って生きていきたいんですよ。いろいろあるけど悩み始めたらキリがないから。だけど妻は、そういう僕をなにも考えていないと責める。思わず、『ヒマなんじゃないの?』と禁句を言ってしまいました。妻はそれきり怒って口をきかなくなってしまった」
謝り倒して関係を修復したが、ぎくしゃくした関係は続いている。
■否定的なことは言いたくない
妻と話すと気分が暗くなることも多いとタケヒロさんは言う。妻は、まず否定の言葉から入るタイプだからだ。
「僕が異動になったときも、それまでとはまるきり違う部署だから、自分でも若干不安はあったんですよ。でもいろいろな仕事ができることをありがたく思おう、新しい仕事を覚える楽しみを知ろうと気持ちを切り替えた。妻に異動を告げたら、『あなたにそんな仕事ができるの?』と。ちょっとは昇進したんだからおめでとうと最初に言われたかった」
何か話していても、妻の口から出るのは、「それは違う」「それはダメよ」ばかり。まず人の言うことをいったん受け止めて、それから自分の意見を言ったほうがいいと彼は何度も妻に提案した。だが、妻は否定の言葉をやめない。
「人には持って生まれた性格もあるし、後天的に身についた口癖もある。だけどどんなときでも、僕は相手を肯定したい。だから否定の言葉を使う妻に『ダメだよ』とは言いません。そうかもねと言ってから、でもそういう言い方はどうかなと疑問を投げかけるようにしているんです。でもそれが妻には伝わっていない」
何でも前向きにとらえて、妻のことも否定せずにがんばってきたタケヒロさんだが、さすがに疲れてきたという。
「彼女も僕と一緒にいると違和感があるんでしょうね。離婚するつもりはないけど、家庭内別居などを考えてもいい時期なのかもしれません」
最後に疲れた表情を一瞬、見せたタケヒロさんだが、「なんとか前向きに考えてみますよ」とすぐに笑顔を見せた。