「令和」という響きにも耳が慣れてきたこの頃。この10年ほどで、SNSやグルメサイトの台頭で飲食店と客の関係は大きく変化しました。5年ほど前、変わる飲食店と客の関係のなかで『「客」を振りかざすバカになる前に知るべき男の作法』という原稿を書きました。昭和の文豪、池波正太郎の『男の作法』のなかから、平成にも通じるマナーを紹介しました。
抜き出したのは、「飯のことをシャリとか、箸のことをオテモトとか(中略)鮨屋仲間の隠語なんだからね。お客が使うことはない」「初めて行く店の場合は、(中略)やっぱりいちばん隅のほうへまず坐ったほうがいい」という「飲み食いするときの振る舞い心得」というべきニュアンスのものでした。
ところが、平成の終わり頃から飲食店のあり方が多様になってきました。「飲食」だけが目的ではなくなってきたのです。
近年は客も飲食店も二極化しています。以前は飲食店を利用する客と言えば、多少なりとも「食」に興味がある人でしたが、近年の調査(※)では「メニュー」や「味」、「価格」だけでなく「その日の気分」という曖昧な理由や「クーポンやキャンペーン、プレゼント」で店を選ぶ傾向が強くなっています。
さらに言えば「食にまつわる体験」だけでなく、「滞在」自体が目的の客も増えています。大衆店では、食べ終えても待ち客に席を譲ることなくケータイをイジっている客も珍しくありません。先日はサイゼリヤで2時間ほど注文することなく、ボードゲームに興じる大人を目の当たりにしました。思わず「えー」とつぶやいてしまったのは、僕が昭和だから……ではないことを祈っていますが、令和の飲食店マナーはどういうものになるでしょうか。
価値観の多様化はあらゆるジャンルで起きていますが、飲食店におけるマナーも「滞在型」と「食体験型」とにわかれていきます。
■滞在型店舗のマナー編
ファミレスなど滞在型の店舗の場合、そもそも店と客の結びつきは個人店ほど強くありません。マナーというより当然のルールと考えたほうがいいかと思います。
①長時間滞在には一定の注文を
基本的に飲食店は客の滞在が長時間になるほど、売上効率は悪くなります。客として通うには、そこに店があることが大前提。ドリンクバーだけで何時間も粘るような使い方をしていたら、いつしか店は撤退してしまうかもしれません。長時間滞在を許容する飲食店は比較的リーズナブルなメニューをそろえています。飲食店では一定の注文をしましょう。
②待ち客を気にかける
長時間滞在を許容する低価格の飲食店において、行列は宣伝効果というメリットよりも、回転率の低下に伴う売上低下というデメリットのほうが大きくなります。特に近年では物件の形が変則的だったり、喫煙席が設置されていたりして、入り口の見えない席も少なくありません。長時間滞在するなら、時折入り口に待ち客がいないかをチェックしたいものです。
③店からの「お願い」には協力する
最近の滞在型飲食店には「混雑時には90分を目安にご利用をお願いします」など使用時間の目安や混雑時にはゆずり合いをお願いする文言が書かれています。特に食事時などのピーク時は店にとってのかきいれ時。特に文言がなくとも、店から何かの協力を求められたら気持ちよく応じましょう。
■食を重視する飲食店のマナー編
「食」を重視する飲食店のマナーは、昭和&平成の食事のマナーの延長線上にあります。個人店で店主といい関係を保ちたいときに大切にしたいマナーです。
①「写真を撮ってもいいですか?」
最近は、飲食店で料理写真を撮る際に特に断りを入れなくともいい雰囲気があります。僕自身も、店員が忙しそうで大丈夫だと思われる店の場合、断りを入れないこともあります。しかし「写真を撮っても大丈夫ですか?」と一言断りを入れると、スマートかつ店とのコミュニケーションのとっかかりにもなるので、できる限り一声かけるよう心がけています。ただし、店主や店員、他の客を写し込む場合には、相手の許可を得るのが当然だと考えてください。
②特別扱いを要求しない
足繁く通う店や常連として通う店では、時々店からサービス品の提供を受けることがあります。もちろん店からの厚意やサービスは、店との信頼関係を形であらわすものではありますが、のべつまくなしに特別扱いを要求するのは筋違いなので自重したいところ。ただし慶事などにまつわる「相談」や「お願い」なら話は別。「わがまま」と「相談」の間に線を引きましょう。
③他店の話を大声でしない
最近、飲食店の店主と話していて「あれ、やめてほしいんですよね」と嫌がられるのが「大声で他店のうわさ話をする」です。話題の新店をサーフィンしてブログやSNSに投稿する熱心なグルメ層に多いようですが、恋人が通りすがりの他の同性をチラ見しているようで、決していい気分ではない、と。いい話でも悪口でも飲食店で他店の話をするのは決して行儀のいい振る舞いではありません。
その他、低料金の個別会計はしない。香水は控える。横柄な態度は取らない……などなど昭和、平成から地続きとなる令和のマナー。外食における客単価が低く抑えられている日本では、ブラックと言われる店舗業務の負担を客も引き受け、客単価を上げるよう振る舞うことが「お客様という神様」に求められる真のマナーなのかもしれません。
※情報は2019年5月4日現在のものです