■古くて新しい社会問題、勝海麻衣氏の盗作疑惑から見えてくるもの
近年、クリエイターによるパクリや盗作の騒動が世間を賑わせています。記憶に新しいところでは、モデルで銭湯絵師の勝海麻衣氏の盗作疑惑があります。2019年3月にエナジードリンク「RAIZIN」のライブアートイベントで描いた虎の絵の盗作疑惑が浮上し、ツイッターで炎上。さらには、彼女のツイッターでの発言にもパクリ疑惑が指摘され、クリエイターとしての価値が問われる騒動になりました。
このようなクリエイターのパクリや盗作疑惑は、いつの時代でも生じる目新しくない問題です。しかし、現代のパクリや盗作問題には、SNS時代ならではの「クリエイターの試練」が透けて見えるように感じます。
■SNSの登場で飛躍的に増えた発表の場、そして生じる焦燥感
2008年ごろからSNS時代に入ると、クリエイターの発信手段は格段に増えました。かつては個展やグループ展を通じて、あるいは展示会への出展やメディアでの採用など、作品の発表の場は限られたものでした。しかし今では作品、あるいは創作者としての思いをツイッターやインスタグラムを介して毎日のように発信することができます。
SNSで人気が出れば、瞬く間にたくさんのファンを獲得することができます。その威力は、今ではテレビなどのメディアを凌駕しています。しかし、クリエイターはファンを増やすために、インパクトのある作品、パフォーマンス、コメントを日々発信し続けなければなりません。
SNSにおいて、人々は常に新しい刺激を求めます。この傾向はSNSに限らず、リアルな社会でも同様です。常に斬新さを求められる環境の中、一人のクリエイターがインパクトのある作品や情報を量産し続けることには無理があります。
■他人の作品から刺激を受けることと、真似をすることは違う
こうした状況に置かれると、クリエイターはいったん立ち止まり、休みたくなるものです。しかし休めば、ファンや発表の場を失うというリスクが伴います。クリエイターにとって、これ以上に怖いものはありません。
そこで、作品や意見が未熟であっても、とにかく発信し続けることを目的にする人も出てきます。しかし、十分な吟味もなされずに発信される作品や意見には、質の悪いものや他人の作品に酷似したものが混ざるようになります。すると、あるタイミングでパクリや盗作の疑惑を指摘され、クリエイターとしての価値を落とす結果になってしまうのです。
もちろん、クリエイターにとって、他人の作品にインスパイアされる体験は不可欠です。しかし、その体験が腹落ちし、自分のオリジナリティに活かされるまでには時間がかかります。他人の作品に強く感動すると自然とその作風に影響されますが、そのまま発表すると単なる「真似」になってしまいます。これではプロとして失格です。
■パクリの背景に生じる無意識の言い訳「合理化」とは?
心理学には、人の心のメカニズムを説明する概念の一つに「合理化」という言葉があります。受け入れがたい状況に置かれた時に、自分の心を納得させるために合理的な理屈づけをしてしまうことです。パクリや盗作という、クリエイターとして最も恥ずべき行為をしてしまうクリエイターにも、この合理化の心的メカニズムが生じていると考えられます。
作品の制作期限が迫っている→斬新なアイディアが浮かばない!→そうだ!○○氏の作品を参考にしよう→しかし、このままではパクリになる…→模写をしているわけではない。これは私のオリジナル作品だ。
このように状況を自分の都合のいいように解釈し、いったん生じた抵抗感を打ち消してしまうのです。この合理化は無自覚に生じるので、本人は気づいていません。しかし、クリエイターの価値は作品で評価されます。その作品の構図や構成、表現が他者の作品と酷似していれば、クリエイターの価値が失墜しても仕方がありません。
もちろん、今回の勝海氏の心の中にあるものは誰にもわかりません。しかし、クリエイターがパクリや盗作を行ってしまう際にはこの合理化のメカニズムにより、本人自身がパクリや盗作の意識を持っていないことが多いものです。
とはいえ、作品は雄弁です。本物は残り、贋作は消えていきます。したがって、勝海氏がクリエイターとして本物であるかどうかは、今後、彼女が生み出す作品が語ってくれるのではないかと思います。