ノンフィクションライター亀山早苗は、多くの「昏(くら)いものを抱えた人」に出会ってきた。自分では如何ともしがたい力に抗うため、世の中に折り合いをつけていくため彼らが選んだ行動とは……。
ふとしたことがきっかけで自分の欲望に目覚めることがある。だが、それが叶えられるとは限らないから、人生はせつない。
NTRとは「寝取られ」のこと。寝取られ願望のある男性は一定数いると思われるが、それを仕掛けるほどの勇気がなく、悶々としている男性もいる。
■偶然わかった自分の欲望
妻が浮気しているのではないかと疑い、問いつめたら妻が「元カレと一度だけ」と認めた。その瞬間、妻に得も言われぬ欲望を感じたと白状するのは、タツオさん(38歳)。
「30歳で結婚してひとり娘もいて、共働きだから忙しくていつの間にか“レス”になっていた。妻はそれが不満だったんでしょうか。独身時代の元カレにばったり会って、一度だけしてしまった、と。そう言ったときの妻の顔がたまらなくキレイで。そのまま押したおしてしまいました。妻も燃えていたような気がします」
そんな欲望が自分の中にあったとは、考えたこともなかったという。それ以来、タツオさんは「彼とどうやってしたの?」「感じたの?」と言いながら妻と抱き合っていた。
「妻は情報を小出しにするんですよ(笑)。彼とキスしたときに身体がとろけそうになって、本当はそれ以上のことはする気がなかったと言うときもあるし、彼が挿入してきたときにいちばん感じたと言うこともあるし。妻に翻弄されるのがまた快感で」
だがそれから半年、「刺激」がなくなってしまったと言う。
「妻が自分だけとしているとわかると、なんだかまた萎えてしまった。刺激がないとできなくなっているのかもしれません」
■週末、妻が出かけるように仕向けて
タツオさんは、週末の1日、妻が出かけやすいように仕向けてみた。
「土曜日は娘と映画に行ったりドライブに行ったり。僕は娘と過ごすから好きなことをしたらいいよと妻には言ってあります。帰ってくるたびに、妻が浮気してきたんじゃないかと探ってみるんですが、してないみたいで。
美容院に行ったり女友だちに会ったりして楽しかった、あなたには感謝していると言われて、少しがっかりしています」
浮気してくれればいいのに、と喉元まで出ることがある。だが、それを言ったら妻に嫌われるのではないかと思うと怖くて言えないとタツオさんは嘆く。
「自分がNTRだとカミングアウトすることはできない。こんなヘンなやつと結婚したなんて思われたくないし。勇気が出ないんですよ」
だが、妻が誰かと浮気してほしいという願望も消えない。ネットで夜な夜なNTRの男性たちと語り合い、勇気がわき起こってくるのを待っている。