2018年末、都内某所。
生パスタが美味しいレストランでトマトスパを啜っていると、隣席にアラフィフとおぼしきカップルがやってきました。
男性は濃紺のスーツ姿。ほどほどに恰幅がよく、頭髪にはやや白いものが混じっています。女性はブルーのノーカラージャケットに膝丈のプリーツスカート。ウェーブのかかった黒いボブヘアで、化粧っけはあまりなく中肉中背。
最初は「仕事仲間かな?」と思いましたが、漏れ聴こえてくる「あのアプリ」「何人目」「詐欺や事件もありますよね」などのワードから、どうやら「婚活アプリで出会った二人の初デート」らしいことを把握しました。
「聞き耳調べ」により、まずは二人のプロフィールを共有しておきます。
男性)
50歳(本人談)の契約社員。職種は営業。東京近県の実家に両親、未婚の姉、妹と同居。趣味は旅行。
女性)
40代半ば位。食品メーカー勤務。東海地方の実家で、両親、未婚の妹と同居。趣味はミュージカル鑑賞。
ともにランチセットをたいらげ、食後のコーヒーに進んだ二人は、お互いの人となりを探り始めました。
「お正月はどうされるんですか?」的な導入から、男性のアピールタイムがスタート。
「僕は沖縄に逃げるんですよ。正月はよく沖縄で過ごしますね」
「素敵ですねぇ。でもハイシーズンだから高そう。どの辺に泊まられるんですか? 私は以前、ブセナテラスに泊まりました」と、女性。
ところが!
「いや、会社で使うビジネスホテルがあるんですが、同じグループのホテルに10回泊まると1回無料になるんです! このポイントを失敬して……正月にも使えるから、そこに泊まりますね」
なぜかドヤ顔でセコさ……いや、堅実さを自慢する男性。女性の眉がピクリと動きました。
「そうですか……。ご旅行、お好きなんですよね。他にもご予定はありますか?」
「2月にちょっとソウルまで。夜中に出る便なんですが、2泊5日でなんと1万9800円!」
誇らしげに笑い、またしても伸びる男性のドヤ毛。これに対し、ダダ下がる女性の眉。
「”ちょっとソウル”なら1泊2日か2泊3日でよくないか? なんで5日もかかるし!」……という心の声が聞こえそう。
「まぁ、買い物するでもなく、ひたすら食べて遊んでくるだけですが。お金貯めこんでもしかたないし、それよりは気前よく勝負したり、経験に使いたいですから」
という男性の話を、もはや女性は震えて聞いていました。
勝負? 経験……?
ソウルで買い物をしないなら、お金の使い途はギャンブルかお色気の二択だろうし、これはもう完全にアウト……。さらに、「実家では母と姉妹たちがなんだかんだと世話してくれる」、「家は広いし同居OK」などのフルオプションで攻めたてる無邪気な男性。
女性はもちろん気絶寸前。私はタオルを投げてやりたい気持ちを必死にこらえました。
この男性の何がアカンと言うならば……年齢!!
彼がアピールしたことすべて……ポイントで泊まる安宿も、格安ツアーも、女遊びやギャンブル(推定)も、貯金がないことも、女家族による上げ膳据え膳も! 20代の男子なら「まだ若いしねぇ」と微笑まれて終わること。
しかし、50代というのは人生をまとめあげていくフェイズ。ここで20代のようなワンパクぶりを前に出すのは、半ズボンで婚活に来たようなもの。カラダは大人! 頭脳は子供! 金銭感覚青二才! となるとどうしてよいのやら。このノリに付き合わされたら、ちょっとつらい。
若いころと変わらずアクティブなのはいいけれど、年齢に見合ったアクティブさがきっとあるはず。たぶん、“プレイ”として「安宿に泊まってみよう!」みたいなのはアリでも、50代ともなれば「おとなの休日倶楽部」的なラグジュアリー感がほしい……。
お相手の女性の顔には、そう書いてありました。たぶんこの男性からは、「新島でやんちゃバカンス!」っぽい感性が抜けていないのです。
さて。
一方の女性ですが、こちらはこちらで実家の庇護を十分に享受し、“娘”のポジションから独り立ちできてはいない模様。
話の端々に、「父が……」と父親のエピソードが挟まれます。
察するに彼女は“父”に変わって“家”や“保護”を与えてくれる男性を求めている様子。現在も、「帰る家に困ることはないから、ついつい、イヤになると仕事を辞めてしまうんです」とのこと。
さらに「劇団四季“とか”をよく観ます」と言っておられたものの、私は見てしまいました。
女性がスマホを取り出した際、待ち受けで微笑んでいたのは「刀剣乱舞」のキャラクター俳優。“沼”に堕ちたら二度と這い上がれないと有名な、2.5次元ミュージカルの美男子です。これ、のめり込むと突っ込む額も相当デカくなるはず。
おそらく、このお二人はともに「自分はまだまだ少年(少女)だけど、しっかり支えてくれる母のような(父のような)パートナー」を求めておられるよう。だから、自分はさておき、相手の未熟さは厳しい目で見てしまうというか……。
「しっかりしろ!」と言いたいような、「わかるわかる!」と言いたいような。相反する気持ちがこみ上げたのは、私も“イマドキの大人”だからでしょうか。
今後の展開が気になりましたが、あいにく店が混んできました。アラフィフのピーターパンとシンデレラに「幸多かれ!」と祈りつつ、冷えたパスタを食べきって、席を立った私です。
ある意味似たもの同士のお二人。果たしてカップル成立なりますか……?